テラーノベル
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扉の向こうから、ひんやりとした空気が漏れてきた。 どれほど歩いてきたのか覚えていない。けれど、この館が私を呼んだことだけはわかる。
手を上げ、ゆっくりと扉を二度叩く。
低い音が響き、間もなく蝶番が軋んだ。
そこに立っていたのは、ふたりの子供。
ひとりは白い髪を持つ少年、もうひとりは夜色の髪の少女。
どちらも私を見上げて、ふわりと笑った。
「濡れてるね」
少年が私の裾を指差す。雫が一滴、館の床に落ちた。
「ええ。……流れを辿ってきたの」
私の声は少し掠れていた。
「探しているのは、忘れてしまった記憶」
「探し物?」
少女の瞳が水面のように揺れる。
「じゃあ、見つかるかもしれないわ」
ふたりは顔を見合わせ、また笑った。
その笑みは温かいはずなのに、奥に冷たい底を感じさせた。
「こっちへ」
少年が手招く。
私はゆっくりと、その小さな背を追い始めた。
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