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第6話「金属が価値を持つ時」
> 「これだけ掘っても、売り先を間違えたらタダの鉄くずか。……なにそれ、燃えるんだけど」
うきまちの外れに並ぶ、仮設市街区。
鉄骨を組み上げただけの即席市場には、掘削団や浮き船商人、そして物言わぬ流れ者たちが集う。
カンナはドリルを背負いながら、荷台を引く。
額にうっすら煤がつき、赤茶の三つ編みは荒風に揺れていた。
肩のゴーグルは下げたまま、周囲の視線をまっすぐに受け止めている。
荷台には、剥き出しの鉄鋼板と赤く鈍く光るナダル鋼塊。
掘りたてのそれは、まだ微かに熱を残していた。
「“鉄ノつめ”って聞いたけど……名乗るにはまだ早いんじゃない?」
帳場で待っていたのは、骨のように細い男・ゼラ。
白髪まじりの長髪を後ろに束ね、襟元に金属鎖を巻きつけている。
無表情で鉱石を計測器に置きながら、値段を口にしない。
カンナはにやっと笑った。
「早いかどうか、あんたが決めるの?」
「市場が決める。俺たちは“掘りの質”しか見ない」
そのとき、背後から声が割って入る。
「だったら見ろよ、“質”ってやつをよ!」
キイロが荷の横に回り、薄汚れた整備服の袖をまくる。
金属の音波計測器を起動し、鉄鋼塊に音を当てる。
――ボォォン……
低く、澄んだ音。
まるで、誰かの深い声が響くような、その振動。
「これ、深部金属層から引っ張ったやつ。音が鳴るってことは、歪んでないってこと」
ゼラが目を細める。
だが、周囲の市場の目も集まり始める。
その瞬間――
帳場の背後、鉄骨の影から覆面をつけた一団が突入してくる。
「鉄ノつめの鉄鋼は、うちら《買取監》が預かる!」
鉄仮面、鉈、火薬弾――
市場を武力で制圧して回る“偽の買取屋”たちだった。
カンナは即座に腰のドリルを抜き、
火花とともに低く構えて回転を上げる。
> 「誰にも預けないよ、“唄った金属”なんだから!」
覆面の一人が火薬を投げる。
カンナはドリルを逆手に振り抜き、爆薬を空中で両断。
炸裂前に爆心を飛ばすように打ち返す。
キイロが素早く金属杭を打ち込み、敵の足元を崩す。
ヤスミンが駆け抜け、敵の懐に音弾を叩き込む。
「この鉄は、地面の声を聴いて掘ったやつだ。あんたらの乱掘じゃ、こうはならない!」
ドリルが地面を叩きつける。
その衝撃で鉄板が波打ち、地中の熱が湯気となって上がる。
覆面たちは退き、静寂が戻る。
ゼラは黙ったまま、ナダル鋼塊に再び音波を当てる。
――ボォォン……
低くてまっすぐな音が、ふたたび市場に響いた。
「……値段をつけよう。“語る鉄”は、そう多くない」
カンナは、ゆっくりとドリルを背中に戻す。
> ……あの下に、“ちゃんと”いた。だから、ちゃんと売る。
うきまちの空は曇っていたが、
カンナの視界には、鉄粉の間に淡く光る蒸気が見えていた。