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数十分過ぎた頃、宴会場が暗転し、奏と怜が装いも新たに再入場した。
漆黒のストレートロングの髪を夜会巻で纏め、真紅のバラを髪に飾っている奏は、ベルベット素材で仕立てられたボルドーのドレスに身を包み、怜はブラックを基調としたフロックコートにボルドーのネクタイを合わせ、シャンパンボトルを手にしている。
これから各テーブルを回り、シャンパンサービスを行うようだ。
メロウなアルトサックスのスローバラード、T–SQUAREの『WHEN I THINK OF YOU』が流れる中、圭はテーブルに戻ると、スポットライトを浴びながら、幸せに満ち溢れた新郎新婦に眼差しを向ける。
本来なら、圭は、怜よりも早く結婚するはずだった。
それも、弟が結婚まで考えていた女性、園田真理子を圭が奪い、婚約発表も済ませ、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの御曹司として、大海原を航海するはずだった。
だが、婚約していたのにもかかわらず、大学時代の恋人であり、別れても身体だけの関係を繋げてきた井河千夏との不貞行為が発覚し、地位も名誉も全て剥奪され、降格させられた圭。
対する弟の怜は、真理子と別れた後、音羽奏という女性と出会い、最高の伴侶とこの場所で、未来永劫の愛を列席者の前で誓った。
昨年のクリスマスイブに、怜から投げ放たれた言葉が、圭の胸中を突き貫く。
──奪ったものは、いつしか必ず奪われる。せいぜい気を付けるんだな。
昔から弟は、好きな女性に対して、一途な男である。
愚かな思いを持ち続け、過去の女たちを欺いてきた報いが、今年になって降り掛かり、圭の人生で最悪な状況まで転げ落ちた。
(俺は、これから先……自分が本気で愛せる女に…………出会えるのだろうか…………)
そんな、どん底の悪路の中で見つけた、仄かで柔らかな光。
新郎新婦は、ちょうど美花のいるテーブルで、大きなグラスにシャンパンを注ぎ、彼女は顔を綻ばせながら拍手を送っている。
遠目で美花に眼差しを送りつつ、圭は戸惑いを抱えながらも思う。
あの光に、俺の指先が触れてもいいのだろうか、と。
と同時に、あの光を両手で翳しながら、消えないように守っていきたい、と。
この披露宴で、久々に会った友人の話を思い返しながら、改めて浅はか過ぎた自分の思いに気付く圭。
グラスのタワーにシャンパンを注ぎ込む花婿と花嫁に、神々しさすら感じさせられた彼は、顔を逸らすと、自身の不甲斐なさに、眉目秀麗の顔立ちを歪ませる。
(美花……)
圭は声に出さず、胸の奥で小さく彼女の名前を零すと、メインテーブルに向けて拍手を送る彼女に、もつれた想いを眼差しに乗せた。