あらすじ
16歳になった青年、レイ・ホープは、元々魔法界の住人ではない。青年は一度不運によって死に、神の狂言に巻き込まれて此処へ転生してきた“転生者”である。しかしながら、そこに最強と言う名のテンプレートは存在していなかった。彼は軽蔑すべき劣等者だったのだ。転生する前の物心付いた時から、彼には自分自身では如何にも出来ない一つの大きな違和が渦巻いていた。その違和はいつの日か痛みとなり、彼を襲った。そんな痛みが最高潮に達した時、彼は信頼していた仲間達に裏切られ、捨てられてしまう。そんな時、自分は吸血鬼だと名乗る謎の男に命を救われたものの、彼は何とその男に吸血鬼にされてしまいーこれは乖離の中で終結を知らずに望んだ、仕事人たちの際限なき物語。『その違和感の正体に、貴方は今まで気付けなかった。』
数名の男子高校生達が、会話を楽しみながらハンバーガーショップやゲームセンターが散財している街中を歩いている。その場は人々の話し声と、車が走る音で騒々しく、大きな声を出さないと会話は困難であった。
しかしそれでも、彼等は車に注意しながら上手く意思疎通を行なっているー筈だった。
それまるで、ふとした瞬間に捉えた流れ星の様な刹那の出来事。
男子高校生達の輪よりも一歩前を歩き、信号を渡ろうとしていた青年の視界が、途端に強烈な光に包まれたのだ。「……えっ……!?」
それがトラックのヘッドライドであると言うことを彼が理解したのは、短くも長い数秒後。
ぐるりと回った視界を徐々に侵食していく妙に熱い赤黒い液体と、それに比例して急速に奪われていく体内の熱、全身に走る強い痛み、瞬時に衰えてしまった聴覚で遠くから聞こえる数多の悲鳴と、コンクリートの建物が崩れる音。
そんな状況にも関わらず不思議と活発に活動している脳で、彼は咄嗟に理解した。ーああ、僕はトラックに撥ねられてしまったんだ。
「……っ!」
ベットから思わず上半身を起こす。額にはべっとりと冷や汗をかいていて、体の体温も確実に寝る前より上がっていた。何回目だろう、この悪夢を見てしまうのは。 冤罪の裏切りだ、せめて夢の中には幸せでいたかった。
「はあ……。」何時もならこのまま何も考えずにこうしているが、今日は少し、今までのことを考えたくなった。再び ベットに体を寝かす。左側にあるカーテンを意味無く開けてみたが、月光や星の光が差し込むことはなく、部屋は見栄えのしない暗闇に包まれていた。……今は何時なんだろう。
決まって三人称視点で見る、僕が死んだ“はず”だった日の夢。僕は一度、トラックに撥ねられた。それで、僅か十六年の人生に幕を下ろすはずだったのに。「転生」そんな言葉、インターネットや辞書で調べればいくらでも出てくるし、それを題材にした本だって数え切れない程出版されている。だけどまさか、自分がそれを経験する羽目になるとは。
……この時点で既に嫌になってくるが、まだもう少し続けてみよう。
転生したのはどうやら“魔法界”俗に言うー異世界。……と言うのが最も正しい筈だ。
魔法界と言う名の通り、此処では明らかに物理法則と人体を無視した方法で、火やら水やらを己の手や剣、魔導書から出して使える。
この世界では、天空に女神や天使が存在している。……それと真反対の、魔物という存在も。 数万年前は共存していたそうだが、空望戦争という人間と天使対魔族の大規模な戦争が起こって以来分裂し、今でも対立が続いている。
だから魔法界には、魔族を敵対視している人が多い。 僕にも確かに敵対心はあるがーそれよりも、怖い。しかしそれ以上に思う、「そんなに恨むべき存在なのか。」と。 ライトノベル小説やファンタジーゲームではありきたりな設定だが、いざ実体験としてみると、当たり前だが中々困惑する。
勿論最初はそうだった。なにせ神様からの説明も、何もなかったから。
だけどこの手の小説では、大概主人公が良い思いをする。お気楽にも、少しだけそんなことを期待していた。今思えばただの愚者なのに。「あの頃の僕は、馬鹿だったな。」
だけど現実は全く違かった。と言うより、真逆だった。この世界、魔法界では“裏切り”と呼ばれる魔法が一つだけ存在している。ーその名を、ナイトメア。 当該者とその周辺を黒い霧で包み込み、その中で斬撃に近い攻撃を幾度も行う魔法。これだけ聞けば一見強力そうだが、裏切りと呼ばれるきちんとした理由がある。
理由。それは、魔族にはほとんど効果が無いからだ。しかもそれだけではなく、使用者以外の周辺の人間が何故か深い切り傷を何度も負ってしまうとかいうデメリット付き。最低最悪の、魔法。「どうしてなんだろう。」 僕の能力は、それだった。この世界の母親に聞いたところ、どうやら能力は生まれる前に神様から授けられる為、誰しも最初から魔法が使えるらしい。なら何故こんな魔法が存在するのかと言う問いがあるのなら、その答えは僕には分からない。
魔法学院、己にとっての最大の枷。「もうやめようかな……。」 僕が通っている学校は、コズミマッタ魔法学院という所だ。幼稚園から大学(とは少し違うかもしれないけど)までの進路が約束されていて、受験というものが存在していない。まさに学生からしたら神みたいな場所だ。だけど僕は、この学校が日本に来て欲しいとは思わない。あの場所は、あそこは、唯の
「……地獄だ。」
劣等生にはまるで人権が存在していない。
「少しくらい、優遇してくれたって良いのに。」
親にも迷惑を掛けてばっかりで、申し訳なさにいつも苛まれている。だけどそんな僕に対して、二人は蔑むことも叱ることもせず、ただただ慰めてくれる。「辛かったね。」と。
それともう一つ、魔法学院では十六歳になった時点で四人一組の“パーティー”なるものを強制的に結成しなければならない。
RPGの勇者パーティーみたいな感じの、ありきたりなもの。
エミリー・ヴァネティーという心優しい女の子のお陰で、幸いにもパーティーには入れた。 メンバーは僕と同じく剣術が専門で、その中でも大剣を主に学んでいる、リーダーのカイト・オーナー。彼は炎系の魔法が使える。魔術の内の一つである飛行術に優れている、ミラティア・スターレス。彼女は水の魔法が使える。僕をパーティーに招いてくれた心優しい青年、エミリー・ヴァネティー。彼女は木の魔法が使える。そして、僕。パーティー名は“フォースフード” 両親と同じく、三人はこんな僕に対してとても優しい。
この五人のお陰で、僕の心は壊れずに生活出来ているんだ。だけど-一つだけ、気になることがある。いや、これは転生したから持ったものじゃない。僕が物心ついた頃には、既に持っていたものだ。
それは、どうしようもない違和感。言葉にはとても言い表せない、気持ちが悪い違和。どんなことをしても、決して解消されることはなかった。これは時々、痛みとなって僕を襲った。痛みは決まって頭痛だった。
「痛っ……!」
また来た。駄目だ、今回はいつもと比べて痛過ぎる。これ以上の思考は出来そうにない。いい加減に、寝よう。明日は特別な授業もある。
そう思い目を瞑ったが、頭痛が収まる事はなかった。
〜*
翌朝、と言うより多分今日の朝。何とかして夜眠りについたのは良いものの、結局頭痛が治ることは無かった。
一応表面上では元気を押し出して家を出たが、まるで大きな釘を頭に打ち付けられた様な痛みが永遠と込み上げてくる。普段ならこんなに痛くもなければ、長くても二時間で収まるのに。
「最悪だ……。」
こんな状態では、仲間たちに日頃よりも更に迷惑を掛けてしまう。今日は狼狽の森という、学園からそお遠くない所に広がった森での野外授業なので無理にでも家を出たが、これなら休んだ方が良かったかも知れない。だけど仕方ない、頑張ろう。
大切で大好きな仲間たちと、両親の為にも。
「え……?」
僕は今、何をしているんだっけ。朝、強烈な頭痛と決意を胸に家を出て、学校に着いたらカイトと喋って、そしたら直ぐに森に行くことになって、行くとパーティー事に分かれて、ここら辺に生息している魔物を討伐してこいと説明されて、それで……?
うつ伏せになった状態で、視界に映るのは地面に生き生きと茂っている緑と、木々達の幹。うつ伏せ?なんで?体が痛い。まるであの時、トラックに撥ねられてしまった時の痛みの様だ。でもあれより痛くない。だけど、腹が凄く冷える。「お前、このパーティから追放な。」
髪が引っ張られて、視界が緑から怨嗟を宿らせた瞳へと変わる。衰えた聴覚に、今まで聞いたこともないカイトの低い声が耳に届いた。
ーああそうだ、思い出した。
「カイト、やり過ぎよ。誰かに見つかったら不味いわ。」
「エミリーは心配性だな、こんな森深くまで来る奴なんか居ないだろ。」
頭が解放されて、勢いよく地面にぶつかる。
「それもそうね。」
魔術担当のタレク先生、イグニ先生、ムーリア先生、リドー先生、イアナ先生、プマント先生の五人が引率の、狼狽の森での野外授業。ここでは近頃、獣の低級魔物がよく出現しているから、それをパーティーで協力して倒してこいと。二時間で。 馬鹿だ、違う、これは余計な記憶。
僕たちは中々見つけられなくて、でもそんな時に、ざっと二メートルはある銀色の人狼を見つけた。そいつは僕らに敵意を持っていたから、いつも通り。
でも僕はみんなを傷付けてしまうから能力を使えない。しかも剣術の才能もそこまでない。だけどそのまま棒立ちする訳にも行かないから、せめてまだ使える剣を使って戦おうと思ったら、真っ先に人狼と戦っていたカイトに腕を引っ張られて、彼の前に立たされた。
そしたら、あれ?魔物が僕に向かって、大きくて、鋭い爪を振り下ろして
「うわ、死にそー。」
それで、僕は切られたんだった。
だから腹から血液が流れて、そこから体温が急激に下がりだして、冷えてるんだ。
あの魔物は、みんなが倒したのか?それとも逃げたのか?分からない。そんなことより、パーティーから追放?
「貴方との下らない仲間ごっこはもうお終い。最初は心優しい人だと先生や友達から褒められていたけど、最近私たちの評判悪くなってきたのよ。“裏切り者がいるパーティー”だって。だからもう要らない。」
「エ……ミ……リー……?」
声が冷たい。まるで、もう使えなくなってしまったような。オンボロの玩具に話しかけるように。何で、だ。僕は、もしかして、ずっと前からこんな風にー
「喋らないで、裏切り者。貴方なんてね、パーティーどころかこの世界に不要な存在なのよ。」「なん……で……?」
「自分の愚かさにも気付いてないの?流石ナイトメア持ちの魔族の仲間ね。」
エミリーが僕を嘲笑する。
「ねえ二人とも、もう行こうよ。こんな馬鹿に付き合ってる暇ないでしょ。」
「それもそうだな。」
「そうね。」
ミラティアの声を起点に、三人の足音が遠く聞こえてきた。
しかし次第に、ただでさえ遠いこの音は更に遠くなっていく。血でぼやけてしまった視界では、上手く視認出来ない。
でも三人は、僕の顔とは反対方向に歩いていってしまったことは分かった。三人は、僕のことを、捨てた?でもそんな急に、何故。僕の、この力のせい?
「待っ……て……。」
身体を起こそうとするが、大きな損傷を負った体は蝋に固められてしまった様に動かず、心の奥深くまで刺された刃物は抜いたら多量の放棄を溢してしまう。抜いたらきっと、すぐに絶える、
しまいには完全な静寂が訪れた。せめて最後は安らかにと言う森の無用な親切か、風で葉が揺れる音も、鳥が鳴く音も無い。
““もう死なせて。””
「……い…おーい……君、大丈夫?」
一体意識を失ってからどれ程の時間が流れたのだろうか。
突如として耳に届いた見知らぬ男性の優しそうな声に僕は目を覚ました。
ということは僕はまだ、生きている。あれだけの重傷を負ったはずなのに。
ぼやけた視界でなんとか確認出来たのは、齢二十程度の顔。目の前にあるということは、恐らくこの男性は態々しゃがみ込んで此方の様子を確認してくれているのだろう。
一先ず何故こうなったかを起き上がって説明したいが、両手は極寒地に居る時の様に震えてしまい、そもそも全身に力が入らない。しかし出血と痛みは、不思議なことに引いていた。
「良かった、まだ生きてるね。……でも、そんな無理して起き上がろうとしなくても大丈夫だよ。そんな体じゃ、息一つするのも億劫だろう?
」そんな様子を見兼ねてか、男性はその行為を静止するよう促した。
「……でも……。」
“早くこの森を抜けなきゃ危険”
と続けようとしたが、喉は内側から誰かに絞められている様に詰まってしまって上手く言葉が出せない。
「まあ、こんな場所に何時迄もうつ伏せになっていたくないよね。どうせなるならまだ海水の方がマシだ。」
“ちょっと失礼”と続けると、男性は僕を仰向けの状態にしてから流れる様に右手で首の裏、左手で背中を支えてくれる。
「取り敢えず、包帯を巻いても良いかな?」
「は……」
返事をしようとしたその瞬間だった。
ぴちゃり。と、一滴の何かが、僕の右頬に落ちる。妙に温かいその液体は、落ちた地点の丁度真下に向かって流れていった。
しかし何故かそれは、腹の辺りで急激に消失した。
「今…何…が…?」
その疑問に、男性は返答を示さない。今の僕がこの男性を認識出来る最大の方法であるということは、恐らく理解している筈。
しかし、何秒待とうが、男性は何も言わなかった。
「……ごめんよ。」
何十秒か待って発せられた言葉は、何故か謝罪の意が込められたもの。
その意味を問い掛けようと口を開くと、また不明にも意識が徐々に絶たれていく。
「……したよ、このまま帰れば良いんだね?……分かった、やっぱり此処じゃあ上手く話せないね。」
そんな言葉を最後に、視界はまた数分前と同じく暗黒に支配してしまった。
「っ……ん……?」
次に目を覚ました所にあったのは、視界一面に広がる茶色と、肌に触れる暖かい布団の感触。起きた直ぐ後の所為か暫くこの状況を飲み込めなかったが、数分経ってようやく、ここが見知らぬ土地だと理解出来た。
「ここ…どこ…?」
とりあえず此処を探ろうと、掛けられた一枚の白い布団を剥がし、上半身を起こして辺りを見渡す。いつの間にか体はすっかり軽くなっていって、怪我も消え、破れた制服も元通りになっている。しかもベットに寝かされていたらしい。
ざっと見る限り、此処は一般的な家に有りそうな丁度いい大きさの、正方形に建設された一室のようだ。天井に良く似合う白い壁に、自分から見て左の窓。
それには白いレースのカーテンが掛かっていて、そこから優しい陽の光が差し込んでいた。そして前に少し遠く見えるのは、天井の色に統一された木製のドア。家具は置かれていない。
大体、この部屋の構造は分かった。だけど問題なのは此処から。普通に考えてみればあの男性がこの部屋に来るまで待つべきだろうけど、それを差し置いて単純に一つの疑問が残る。
ーー先程の、感触。何か生暖かい液体が落ち、それが僕の頬を伝って、でもそれは、腹の辺りで急に消失した。それにあの優しそうな男性は、謝った。とても申し訳無さそうに。液体が急に消失するなど、魔法を使ったとしか考えられない。だが、あの男性は魔力を持っていただろうか。判らない。
あの時は自分の命しか考えていなかったから、周りが見えていなかった。
そんな風に頭の中で一人議論をしていると、不意に正面のドアから三回のノック音が響く。
「失礼します。体調の方は?」
ノック音が終わると同時に、今度は先程の男性とはまた違った、やや低い男性の声が外から聞こえてきた。
扉から少し離れている所為でその声は小さいように感じたが、それでもはっきりとした発音だったのでよく聞こえた。
幾ら他人でも礼儀だ。せめて返事をしなくては。
「ああ、お陰様で……。」
“大分良くなりました”
そう言い掛けて、何か得体の知れない気配を感じた時に本能が発信する危険信号が僕に訴えてきた。
ーー扉一枚挟んで向こう側にいる男性は、魔物だ。
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ポケコロでフレンドのアリスです!!テラーインストールしたのでフォローしました✨やっとテラーできる(((((( やっぱこの小説大好き(꒪ཀ꒪)グハッ