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御子柴聖 十七歳
早乙女隼人はあたしの顔を、ジッと見上げながら口を開く
「やっと会えたな、御子柴聖」
「なっ、なななな!!?」
何で、御子柴聖ってフルネームが早乙女隼人の口から出て来るの!!?
あたしの事は、今の三家の当主しか知らない筈じゃ…
まさかとは思うけど、八岐大蛇の封印を解いたのは早乙女隼人って事?
いや、あの当時は早乙女隼人もあたしと同じ歳の子供だったし、そんな事ありえるのか?
「ハハハッ、諦めずに探し続けて正解だった」
色々と思考を巡らせていると、早乙女隼人が懐かしい物をみるような…、どこか優しい眼差しを向けてきた。
その目を見れば、早乙女隼人が八岐大蛇の封印を解いた人物とは思えない。
だって、早乙女隼人があたしに向ける視線は…、本当にあたしの事を心配していた事が分かるから。
彼がどう言う意図で、あたしの事を探していたのか解らないけど…。
色々と思考を巡らせていると早乙女隼人が立ち上がり、あたしの前で膝をつく。
その光景は誰が見ても、早乙女隼人がああたしに跪いているように見える。
「は?」
この状況は…、何?
ど、どどどどう言う事…?
困惑しながら蓮の方に視線を送るが、蓮もあたしと同じように驚いている様子だった。
「早乙女隼人が、膝をついた!?!?い、いや、つかされたのか!?」
「う、嘘だろ?」
「ど、どうなってんだよ?!おい!?」
ワァァァァァ!!!!
周りで見ていた生徒達が、一斉に騒ぎ出すのに時間は掛からなかった。
確かに、この光景を見たら騒ぐのは間違いないけど!!!
いやいや!!!
ちょっ、ちょっと待て!?
早乙女隼人が勝手に、あたしの前で膝をついたんです!!!
どうなってんのは、こっちの台詞なんですけどぉ!?
「勝者、鬼頭聖!!!!」
「「「ワアアアアアアア!!!やべー!!!」」」
「すげー試合だったな、これは!!!」
佐和先生が大声を上げると、生徒達の興奮度は更に高まり、体育館中に歓喜の大声が響き渡って行く。
しばらくは生徒達の興奮が静まりそうにないな…、これは…。
「おいおい…マジかよ!!隼人が負けるなんてなぁ…、想像もしてなかったよ」
「姉ちゃん、お疲れ」
そう言いながら大介は早乙女隼人に、楓はあたしに近寄りながら声をかけてきた。
「楓!?み、見てたの?」
「そりぁ…、姉ちゃんが喧嘩売られてんのに、見に来ない訳ねぇーじゃん?」
楓は隣に立ち、あたしの顔を覗き込んでくる。
「ゔっ、やっぱり噂されてたか…。学院では目立たないようにしようと思ってたのに」
「まぁ、姉ちゃんが学院に転校してきた時点で、色々と噂は流れるよ」
「お前等、本当に姉弟だったんだな」
早乙女隼人が、あたしと楓の顔を交互に見ながら呟く。
「あ?どう言う意味で言ってんだ、早乙女隼人」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ、楓君っ。隼人は悪気があって、言った訳じゃないんだよ」
「おーい、鬼頭。理事長室に行くぞ、早乙女も付いて来いよ。」
大介が楓の事を宥めようとした時、佐和先生があたし達を手招きするのが視界に入った。
あたしは早乙女隼人を横目で、気付かれないようにチラッと見つめる。
最初見た時の印象とは全然違って、凛としていて太々しさが無くなった。
それに、どこかスッキリしたような感じが…?
「鬼頭」
急に早乙女隼人に話し掛けられ、佐和先生の元に向かう足を止める。
「何?」
「後で話がある」
「それはあたしも思った。また、喧嘩売ったりしないよね?念の為に聞くけど」
「しねーよ、もう確認する必要はないからな」
その言葉を聞いて、早乙女隼人の教室での行動が理解出来た。
あの行動は、何かを確かめる為にした行動だったって事…?
そう思えば納得出来る行動だけど、早乙女隼人は最初から…。
最初からあたしを御子柴聖だって、分かってたのかな。
「田中先生も同席して下さい」
「分かりました」
佐和先生が蓮にも声を掛けていたので、蓮も一緒に行く事になった。
蓮も一緒に居てくれるなら、心強いな。
「姉ちゃん、終わるの待ってるから」
「楓、待っててくれるの?」
「勿論」
楓の言葉を聞いた大介は、早乙女隼人とあたしに向かって声をかけてきた。
「俺も隼人待ってるから!楓君と一緒に待ってるね、聖ちゃん」
「あ?」
大介がそう言うと、楓の眉毛がピクッと動いた。
「聖ちゃん?って?」
楓が眉間に皺を寄せながら、大介との距離を縮めて行く。
「あ…。えっと…」
「聖ちゃんって、何?さっきから姉ちゃんに馴れ馴れしいんだよ、お前」
「へ!?そ、そんな事はないと思うけどなっ?」
「姉ちゃんに近付くな、馴れ馴れしくするな」
「同じクラスで、それは無理な装弾だって!!?た、助けて、聖ちゃん!!!」
あたしに助けを求めて来た大介を無視し、佐和先生を先頭に体育館を後にした。
佐和先生と早乙女隼人の後ろを、あたしと蓮は少しスピードを緩めて歩いていると、隣を歩いていた蓮が小声で声をかけてくる。
「お嬢、大丈夫ですか?さっき、一瞬だけ様子が変だったので」
蓮は本当に、あたしの事をよく見てるな…。
「早乙女隼人が、あたしが御子柴だって気付いたんだよね」
「本当ですか!?」
小声でさっきの出来事を話すと、蓮は目を丸くさせながら驚く。
「うん、それでね?この後に話をする事になったから、蓮にも同席して欲しい」
「分かりました」
「おーい、理事長室に入るぞ。」
あたしと蓮が小声で話していると、佐和先生が理事長室の扉を開けて、あたし達を手招きしていた。
あたし達は足早に理事長室に入ると、智也さんが小さな箱を手に持って待っているのが視界に入る。
何だろ、あの箱。
箱の中に何か入ってるとは思うけど…。
「理事長、鬼頭聖と早乙女隼人を連れて来ました」
「おう、ご苦労だったな。鬼頭、こっちに来い」
佐和先生の言葉を聞いた智也さんは、フランクな話し方で声をかけてきた。
他のメンバーが居るから、あたしに対して敬語で話すのはね…。
「はい」と短く返事をしながら、あたしは智也さんの前に立つ。
「鬼頭聖を壱級と認定する」
そう言って、智也さんはあたしに箱を渡してきた。
渡された箱を開けて中身を見ると、壱級と書かれた赤色の札の形をしたバッチが入っている。
早乙女隼人と同じ、壱級のバッチだ。
佐和先生があたしの方を見て、声をかけてくる。
「それと鬼頭には今後、早乙女隼人のグループに入って貰う事にしたから」
「グループ?」
「学生のうちは四人グループになって、任務を行ってもらう事になってるんだよ。お互いのスキルアップの為にもなるしな」
「成る程…、そう言う感じなんですね」
一人で任務に行く訳じゃないのか、単独で八岐大蛇の行方を探すのは無理そうか…。
佐和先生の話を聞きながら思考を巡らせていると、早乙女隼人があたしの顔をみながら口を開いた。
「俺のグループには、大介が居るから安心だろ」
「え?あ、うん」
「それじゃあ、各自解散で。俺は先に戻りますね。今から任務に行って来ますから、これで失礼します」
そう言って佐和先生は、そそくさに理事長室を出て行った。
佐和先生も任務に行ったりするんだな…。
理事長室には智也さんと蓮に早乙女隼人が残され、あたしは早乙女隼人に声をかけた。
「早乙女隼人、話って?」
「理事長室出てからにしねぇ?」
早乙女隼人は智也さんと蓮を見て、遠慮気味に言葉を放つ。
あ、、二人が居るから話しづらいのか。
「大丈夫、あたしの…事でしょ?ここに居る人達は知ってるから」
「え?」
そう言うと、早乙女隼人は驚いた顔をしたが、意を決めたようにあたしに尋ねて来たのだ。
「じゃあ…、聞くけどさ。本当に御子柴聖なんだよな?」
「あちゃー、早乙女の坊ちゃんは、気付いちゃったかぁ」
そう言って、智也さんは煙草に火を付けながら頭を掻く。
「何故、お嬢が御子柴家の人間だって気付いたんだ」
蓮はあたしを背中に隠して、早乙女隼人を睨み付けていた。
早乙女隼人に対して、あからさまに敵意を持っているのが分かる。
早乙女隼人は、蓮の気迫に怯えずに口を開く。
「俺は御子柴聖の下に付く為に、強くなった。アンタだって、本当は本城の人間だろ?十一年前の正月に俺達、会ってるんだよ」
「「え!?」」
驚きのあまり、あたしと蓮の声が重なる。
会った事がある?
あたしと早乙女隼人が!?
「そうだったんだ…。ごめん!!あたし全然覚えてない、…」
「僕だって、覚えてないですよ…」
いつの時だろう…。
あたしは頭をフル回転さえながら、記憶を呼び覚ます。
男の子…、お正月の時に会ったような…。
記憶が正しければだけど…。
「えっと、もしかしてだけど。お正月の時に、御子柴家の近くで…、いた子?」
「思い出したのか!?そ、そうだよ。あの時、アンタに助けられたのが俺だ」
「あぁ!!思い出した!!ろくろ首と戦ってた子が、早乙女隼人だったの!?」
あたしが思い出したのが嬉しかったのか、早乙女隼人がはにかんだ笑顔を浮かべた。
「まぁ、昔の話だから、思い出すのにも時間が掛かるよな」
「そっか、あの時の…。ごめんね、思い出せなくて」
昔の事とは言え、思い出せなかったのは申し訳ない。
早乙女隼人はずっと、あたしの事を忘れずに探し続けてくれていたのに。
蓮もあたしと早乙女隼人の会話聞いて、思い出したらしい。
「良いよ、別に。こうして会えたんだ。それに御子柴家で何が起きたのかも、八岐大蛇が東京にいる情報も聞いてるどうして、東京に出て来たのかは解らないけど…」
「…え?」
早乙女隼人の言葉を聞いて、思わず声が漏れてしまう。
「御父上から聞いた情報しか知らない感じか…、お嬢の呪いの事までは知らないようですね」
「そうみたいだね、そこまでは情報共有されてないのかも」
蓮も早乙女隼人の言葉を聞いて、あたしと同じ事を思っていたようだ。
あたしが八岐大蛇の呪いに掛けられている事は、総司さんは智也さんにか話してないのかも。
どこに八岐大蛇の封印を解いた人物がいるか分からないし…。
「御子柴聖、俺は命を掛けてアンタを守る。俺にも守られてくれないか?聖様」
真剣な目で、あたしを見つめる早乙女隼人。
あの時の男の子が、自分に使えたいって思ってくれるなんて。
あたしの事を探し続けた早乙女隼人に、誠意を見せなきゃいけない。
隣に居る蓮を見つめると、黙って頷いてくれた。
「僕は、お嬢の意思に任せます」
「ありがとう、蓮」
蓮にお礼を言いながら、早乙女隼人の方に向き直る。
「早乙女隼人…、いや隼人って呼んでも良いのかな?」
「え、あぁ…、隼人でいいよ」
「あのね、隼人。実は…、あたしには八岐大蛇の呪いが掛かってる」
「え?」
あたしの言葉を聞いた隼人は、すごく驚いている表情を見せた。
そりゃそうだ、八岐大蛇に呪いを掛けられているとは思ってないだろう。
隼人の表情を見たら、尚更だ。
「十年前のあの日、八岐大蛇に右脚を喰われたの。そして、呪いを掛けてられた。あたしは東京に居る八岐大蛇を滅するに、京都を出て来たの」
「喰われたって…、今は義足を着けてるのか?
「うん、そうだよ」
「掛けられた呪いは…、死ぬ、呪いなのか?」
隼人の問いに黙って頷くと、隼人は顔を歪ませる。
「どうしたら、呪いは解けれるんだ?」
「八岐大蛇を滅するしか方法は無いと思う、今の所は」
「俺にも協力させてくれ、アンタの事を死なせたくないから」
「本当?結構、危ない事なんだけど…。本当に良いの?」
隼人の顔を見ながら尋ねると、隼人は少しだけ頬を赤く染めながら口を開く。
「十一年前から答えは決まってる。何処までも、付いて行きます聖様。
智也さんと蓮が、静かにあたし達を見つめていた。
「おい、蓮。十七歳の男に敵対心を剥き出しにすんなよ?」
「まぁ、戦力が増えるのは良い事ですけどね。そこまで大人気ない事はしませんよ」
「いやいや、言葉と表情が合ってないからな?蓮」
「…」
智也さんと蓮が何か小声で話しているが、あたしには聞こえなかった。
「それとあたしの事は、呼び捨てでお願い。大介変に思わ…」
バン!!!
あたしの言葉を遮るように、扉が乱暴に開かれる音が部屋に響く。
「姉ちゃん!!!」
「楓?!どうしたの?」
近付いて来た楓が、あたしと隼人を乱暴に引き離す。
「コイツに、全部話したのか!?」
「え、う、うん?楓、話聞いてたの?」
「待ってたら聞こえて来たから、急いで入って来たんだよ」
「坊ちゃん。早乙女隼人は、お嬢に忠誠を誓ったんですよ」
蓮が楓を宥めるように、あたしと楓の間に割って入る。
だが蓮の言葉を聞いた楓は、気に入らなさそうに隼人をキッと睨み付けた。
「は!?蓮と同じポジションになったって事かよ!?姉ちゃん、コイツの事を信用してんの?」
その言葉を聞いた隼人は、眉間に皺を寄せる。
楓が怒ってるのも、あたしの為だって分かってるから良いけど…。
隼人には、分からないもんなぁ…。
「鬼頭楓に言われる筋合いは無い。聖が決定した事だ、お前も文句は言えない筈だ」
楓と隼人が顔を近付けて行き、お互いを睨み付けている。
これは喧嘩に発展するか?
「おいおい。お前達いい加減にいろよ?それより、聖様達にお話しがあります」
智也さんが、真面目な顔をしてあたし達を見つめた。
楓と隼人も、智也さんの方に視線を向ける。
「何ですか?智也さん」
「はい、聖様達に任務が入りました。たった今ね?」
智也さんはそう言いながら、あたし達にスマホ画面を見せてくれた。
画面を覗いてみると、写真付きのメール画面が映し出されている。
「八岐大蛇の配下である沼御前と大蛇を滅すると言う任務です。八岐大蛇達が百鬼夜行を作る前に、配下の妖怪達を滅して欲しいとの事です」
「まだ、八岐大蛇と接触はしていないって事か?」
隼人はそう言って、智也さんに尋ねた。
「そうだ、その前にこちらが先に接触して封印する。福島県庁からの直々の任務だ。未成年の男性が連続行方不明事件が、一週間前から起きている。行方不明者は十五人に登ったそうだ」
「十五人!?たったの一週間でか!?」
智也さんの言葉に、隼人はかなり驚いている。
*沼御前、福島県の沼沢湖に棲む沼の主人とされる蛇妖怪。
約六センチの毛髪を持つとされている乙姫のような女や大入道などに化けるとされている。
狂暴な一面を持ち、人間に害を為して討伐されたと言う話もあれば、実は生きており、人間の少女を拐ったが直接殺さなかったなどの話がある。
また、討伐された後にも機織りをする女に化けたともされる*
沼御前は確か…、美女に化けて人を騙し人を惑わす妖怪だったかな?
成る程、沼御前が男の子達を誘拐して何かをしようとしてるのか。
未成年の男の子達がまだ、生きていたら良いんだけど…。
「つまり、僕達が沼御前を滅しって、行方不明者を助け出すって事ですね?」
「その通りだ、蓮。聖様に早乙女に前田。そして、楓も同行させる」
「「コイツも!!?」」
隼人と楓の声が重なり、お互いの顔を睨み付けている。
「問題無いだろ?楓も早乙女と同じ壱級だ。そして、沼御前は弐級妖怪だ。一応、油断だけはするなよ」
「楓の同行は賛成、大介は弐級だし…。戦力は多い方が良いよね」
あたしのグループに楓が入ってくれる事に、何も問題ない。
ただなぁ、楓が嫌がるだろうなぁ…。
「お嬢の言う通りです。二人とも仲良くしろとは言わないけど、喧嘩はすんな。それでお、嬢に迷惑掛けな
いでくださいね」
蓮は二人にビシッと喝を入れると、二人は蓮の言葉を黙って聞いていた。
お、蓮の言葉は素直に聞くんだ。
「明日の早朝に出発してもらう、蓮も同行させる」
「蓮も連れてって、良いんですか?」
「はい、聖様は慣れていますが。形上、この学院では初任務と言う事になっていますから…。初任務の時は教師が同行するんです」
「成る程…」
智也さんの言葉を聞いて、学院のシステムを理解した。
そうか、学院の人からしたらか…。
あたしは普通の学生に見えてるから、先生も同行させるのは当然だ。
「お嬢が行くのに、僕が行かないなんて有り得ないよ」
蓮があたしの顔を見ながら、優しく微笑む。
ドキッ。
「蓮が居てくれるなら…あ、安心
「そう言ってもらえると、嬉しいですね」
蓮の優しい紫色の瞳が、あたしを写してる。
綺麗な瞳に吸い込まれそう、ずっと見ていられる。
「コホン!!!」
「「っ!?」」
ジッと蓮の瞳を見つめていたら智也さんの咳払いで、ハッと我に帰った。
「す、すみません」
蓮は慌ててあたしから目を逸らし、智也さんに視線を向ける。
「二人の空間は、二人の時にな?。じゃあ、明日は六時に学院に来いよ蓮」
「分かりました」
「聖様達も、六時にお願いしますね?」
「了解です」
あたしが智也さんに返事をすると、隼人と楓も返事をした。
東京に来てから、初の妖怪討伐の任務か。
「それじゃ、今日は解散。ゆっくり体を休めてくれ」
「分かりました。それじゃあ、失礼します」
あたし達は、智也さんに頭を下げてから理事長室を出る。
「それじゃあ、隼人。任務の事、話しといてね」
理事長室を出た後、クルッと隼人の方を振り返りながら、大介に任務の事を言うように頼んだ。
「分かった。俺はクラスに戻って、大介に話してくるから」
「お願い。」
あたしは背を向けた隼人に言うと、手を軽く振っていた。
「早乙女隼人の事を信頼したなら、俺は信じる。だけど、俺はアイツが少しでも可笑しな行動をしたら殺す」
「楓…」
「心配なんだよ」
楓は不安そうな顔をして、視線をあたしの義足に視線を落とす。
相当、あたしが八岐大蛇に右足を食べられた事が、堪えてるみたい。
これは誰の所為でもないのに、責任に感じなくて良いのに。
「楓が付いてるなら、心強いよ。頼りにしてる」
ポンポンッ。
そう言って、楓の頭を撫でた。
「坊ちゃん。僕も付いてますから、大丈夫ですよ」
「ま、まぁ蓮の方が、姉ちゃんの周りに目を配ってるよな。分かったよ」
「さ、行きましょうか」
「うん」
あたし達は、長い廊下を歩き始めた。
八岐大蛇の仲間を滅する、百鬼夜行を作られる前に止めないと。
これが、八岐大蛇を滅する為の第一歩となる任務だ。
あたしは絶対に、八岐大蛇の企みを止め得るみせる。
***
「う、ぅぅぅっ」
「た、助けてくれ…っ」
「だ、誰か…」
ポチャン、ポチャン、ポチャン。
夜の静かな湖で、水の弾く音と男達の呻き声が響く。
沼御前は、いやらしい笑みを浮かべながら、苦しむ男達を見ていた。
「大蛇様、早くお会いしたいですわ」
八岐大蛇に恋焦がれるように、夜空に浮かぶ星々達を見上げる。
そう、恋焦がれるように。
第弐幕 完
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