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親に育児放棄されている14歳の少年、太郎は、怪しげな老人から妖怪を捕まえ、使役することのできる壺をもらった。その壺で「垢舐め」を捕まえた太郎は、近所の女の子を驚かして遊んだ。それに味を占めた太郎は、別にイケニエを探していた。
「しかし、妖怪の種類を増やさないと、同じようないたずらばっかりになっちまうな……」
そんなことを考えながら歩いていると、ガソリンスタンドの近くに奇妙なものが立っているのに気付いた。太郎は、壺の力で妖怪を見ることが出来る上に、正体を知ることが出来た。
「あれは……へえ、油取りって妖怪なのか」
それはガソリンスタンドの蛍光灯の下で、ポンプの陰にうずくまっていた。人一人分くらいの大きさで、長い舌を伸ばしてアスファルトにこぼれた油の染みをちゅうっと吸っている。時折、舌の先が地面を叩く音がして、かすかに金属の匂いがした。
老人のやったように壺を妖怪に向けると、蓋がひとりでに開き、黒い渦が巻き起こった。油取りはこちらに気づいたのか、顔のない頭をこちらに向け、舌をぺろりと引っ込める。だが次の瞬間、渦が油取りの体を包んでいた。油取りは最後に一度だけ、悲鳴のような油の滴る音を立てて、壺の中に吸い込まれていった。
「二匹目だ」
太郎は満足げに笑った。こいつはどうやら、子どもを誘拐して、体から油を搾り取るらしい。もっとも太郎にそんな残虐なことをする気はない。ちょっと誰かをからかって、気晴らしが出来れば十分だ。
「さて、誰かちょうどいいやつはいないかな……」
そう思ってあたりをうろついていると、人気のないくらい道を、一人の女子高生が歩いているのを見つけた。
女子高生は制服のスカートを少し短めに折って、スマホの画面を覗き込みながら歩いていた。街灯の光が彼女の横顔を白く照らし、長い髪が肩のあたりで揺れている。名前は知らないけど、近所で何度か見かけたことがある。高校二年生くらいだろう。ちょっと生意気そうな、でもどこか隙のある顔立ちだ。太郎は路地の影に身を潜めて、壺をそっと握りしめた。
「あいつがちょうどいいな」
壺の蓋を軽く開けると、中からぬるっとした気配が漏れ出した。太郎は心の中で命令する。――あの女の子を誘拐してこい。そうだな、この近くに廃屋があったはず。あそこに連れ込むんだ。
太郎は息を潜め、路地の暗がりから女子高生の後ろ姿を見守った。彼女はまだスマホに夢中で、周囲などまるで見ていない。街灯のオレンジ色の光が、短く折ったスカートの裾を照らし、白い太ももがちらちらと覗く。油取りは地面すれすれに這うように移動し、アスファルトに長い舌を這わせながら女子高生に近づいていく。舌の先が地面を叩くたび、かすかに金属と油の混じった匂いが漂った。女子高生は気づかない。イヤホンから漏れる音楽が、彼女の耳を塞いでいる。油取りは彼女の足元まで達すると、ゆっくりと体を起こした。人一人分の大きさの影が、街灯の光にぼんやりと浮かび上がる。顔のない頭部から、長い舌が蛇のようにはう。突然、女子高生の足が止まった。
「……え?」
彼女が顔を上げた瞬間、油取りの舌が彼女の足首に巻きついた。ぬるぬるとした、冷たい感触。女子高生が悲鳴を上げようとしたが、舌はすでに彼女の口まで伸びて塞いでいた。
「んっ……!?」
彼女の体がふわりと浮く。油取りは彼女を抱え上げるようにして、暗い路地の方へ滑り始めた。スマホが地面に落ち、カツンと音を立てて画面が割れた。太郎は満足げに笑い、路地の奥へと先回りした。廃屋はもうすぐそこだ。古びた木造の二階建てで、窓は全て板で塞がれ、門は半開きのまま錆びついている。近所の子どもたちも近寄らない、完全に放置された建物。油取りは女子高生を抱えたまま、廃屋の裏口から中へ滑り込んだ。(続く)