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決闘を申し込むような口調で告白🤣ストレートでよい
命令口調の告白だけど、杏樹ちゃんの心の整理がつくまで待っててくれて感じがいい(灬ºωº灬)♡︎
俺様優弥なので命令口調だね『俺と付き合え』😆
車の中で杏樹が優弥に聞いた。
「次はどこへ?」
「城ヶ島だ」
「城ヶ島?」
「岩場のある海だよ」
「?」
「あそこの海は深さもあるし海底も岩場で出来た複雑な地形だ。そこで指輪を投げろ。そうすれば二度と戻って来ない」
「あ、それで…なるほど。砂浜だと波で戻ってきちゃいますもんね」
杏樹は納得したように頷く。
車は城ヶ島大橋を渡った後目的地へ着いた。車を降りた二人は海が見える場所まで歩いて行く。
途中狭い路地を右へ曲がりそのまましばらく歩いて行くと海が見えてきた。
「わぁ……海」
岩場の向こうには海が見え潮の香りが鼻を突いた。
「あの岩場の先まで行けるのですか?」
「うん。城ヶ島は初めて?」
「初めてです」
杏樹は初めて見るその壮大な景色に目を奪われていた。
岩場を歩き始めると優弥が手を差し伸べる。
「転んだら危ないぞ」
優弥の言う通り岩場は歩き辛く海水で濡れた部分は滑りやすそうだ。杏樹は素直にその手を握った。
二人は手を繋ぎながら海が見える岩場の先端まで歩いて行った。
最先端まで辿り着くと杏樹が感嘆の声を上げる。
「うわーすごーい、絶景ー」
そのダイナミックな風景に杏樹は一瞬にして心を奪われた。
眼下にはエメラルドグリーンからブルーへと続く美しいグラデーションの海が広がり、その海面すれすれを海鳥が横切っていく。
海側から吹いてくる風は頬に心地良く濃い潮の香りがした。
海を隔てた向こう側の岩場には釣り人が数名いる。そして反対側にはカップルや家族連れの観光客が磯遊びをしていた。時折その笑い声が風に乗って聞こえてくる。
「気持ちいいですねー、やっぱり海っていいなぁ」
「よーし、じゃあここから投げろ」
「はいっ」
過去の恋ときっぱり決別するにはピッタリの場所だった。
杏樹がバッグの中からムーンストーンの指輪を取り出すと優弥がそれをつまんでじっくりと見る。
「本当にシルバーなんだな…この石はなんて言うんだ?」
「ムーンストーンです」
「月の石か……そう言えばここからは『月への階段』が綺麗に見えるらしいな」
「『月への階段』?」
「うん、満月の夜、月明かりが海面に映って月へ続く階段のように見えるらしい」
「へぇ…だったらこの指輪も月へ戻れるかもしれませんね」
「ハハッ、そうだな。よしっ、じゃあ思い切り叫んで投げろ」
「叫ぶって何を?」
「なんでもいい……森田に対する今の思いでも叫べ」
そこで杏樹は考える。
(私の今の思い……)
そこで杏樹は意を決して叫んだ。
「正輝のバカヤローッ!!!」
そして杏樹は大きく右手を振りかぶると指輪を海へ投げ捨てる。
杏樹の手から離れた指輪はくるくると弧を描きながら飛んでいきやがて海の中へ姿を消した。
指輪を捨てた瞬間、杏樹はずっと心の中にモヤモヤしていたものが消え失せていくのを感じた。
「どうだ? スッキリしたか?」
「しました……思ってた以上に」
「なら良かった」
優弥はホッと息を吐くと近くの岩に腰かけたので杏樹もその隣に座る。
「海風が気持ちいい」
「海っていうのは不思議だよなぁ…なんか浄化されるっていうか……」
「副支店長でもそんな事思うんですね」
「『でも』ってなんだよ」
「だって落ち込んだりしない感じですもん」
「まあ精神力は割と強いほうだけどな。でもたまにはホッとしたい時もあるよ」
「そうですよね……」
「杏樹こそどうなんだ? 指輪は手放したけれど気持ちの方は整理つきそうか?」
「はい。まあ付き合った期間も1年ちょっとと短かったですし、すっごいラブラブのカップルっていう訳でもなかったし……別れるのってこんなにあっさりなんだなぁって感じですけどね」
その時杏樹の脳裏に正輝との思い出が走馬灯のように流れ始める。
杏樹の支店に正輝が転勤して来た日の事、飲み会で初めて正輝と会話を交わした日の事。
それを機に正輝は度々杏樹の窓口を訪れるようになった事。
そして杏樹が仕事を終えて帰ろうとすると外回りから戻って来た正輝と偶然会う事が増えていく。
気付くと二人きりで会話を交わす時間が増えていた。
(もしかしてこの人は私の事が好きなの?)
杏樹がそう思い始めた頃正輝が杏樹に交際を申し込んだ。そして二人は付き合い始めた。
その時杏樹の瞳からふいに涙がこぼれ落ちた。
(あれ? どうして? もう正輝に対して未練はないはずなのになんで今頃涙が出るんだろう)
杏樹は泣いている事を優弥に悟られないよう慌てて指で涙を拭うと咄嗟にペロペロと涙を舐めて誤魔化す。
しかしあまりのしょっぱさに思わず顔をしかめた。
その時優弥がポケットからハンカチを出して杏樹の前に差し出した。
「汚いなぁ舐めるなよ……ほら、これで拭け」
「す、すみませんっ……あ、あれ? な、なんで今更涙が? 未練なんてないのに……なんで? アハッ」
杏樹は言い訳をしながら優弥のハンカチを目に当てると突然嗚咽を漏らして泣き始めた。
それはとても切ない声だった。
思わず優弥の胸がギュッと痛む。
優弥は肩を震わせて泣き続ける杏樹を座ったままの姿勢でギュッと抱き締めると、いつまでも傍に寄り添っていた。
それからどのくらいの時間が経っただろうか?
すっかり涙の枯れた杏樹は最後にもう一度ハンカチで目を拭うと言った。
「すみません……ハンカチ洗ってから返します」
「そのままでいいよ」
「いえ、そうはいきません」
杏樹はそう言いながらハンカチをバッグにしまう。
「ところでさ……森田って早乙女家具の令嬢と付き合ってるのか?」
「付き合っているかどうかはわかりませんが正輝……森田さんは彼女の事が好きだと言っていました」
「ふーん、じゃあなんでこの前杏樹のマンションの前にいたんだ?」
「わかりません」
「謎だよな…」
「はい」
「まぁそんな事はもうどうでもいい。さーて、じゃあそろそろ上書きを始めるか」
「?」
「いいか? ここからが俺達のスタートだ」
「?……はい……」
「よーし、じゃあ立て」
優弥が立ったので杏樹は不思議な顔をしたまま優弥の横に立つ。
すると優弥は杏樹と向かい合うような形で両手を握ると杏樹を見つめながらこう言った。
「桐谷杏樹、俺と付き合え」
「!?」
杏樹はびっくりして言葉が出ない。
「返事は?」
「あっ……え? でも本当に……私と?」
「もちろんだ、付き合いたいから交際を申し込んでる」
「…………」
「杏樹?」
「はい……よろしくお願いします」
あまりの優弥の迫力に杏樹はついそう答えてしまった。
すると優弥がホッとしたような表情を浮かべる。
「こちらこそよろしくな」
優弥は微笑みを浮かべるとすぐに杏樹を抱き締め唇を重ねた。
熱いキスを受けながら杏樹は思った。
(ここからまた始まる……)
いつまでも唇を重ねる二人の耳には、波音、海鳥の鳴き声、そして遠くから聞こえてくる楽しそうな笑い声が響いていた。