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二人は車へ戻り城ヶ島を後にする。

走り始めた車の中で杏樹が聞いた。


「マンションへ帰るんですよね?」

「いや、ちょっと寄りたい所がある」

「?」

「新しい魔除けを買わないと」

「魔除け?」


杏樹は不思議な顔をする。


「横浜でいいかな?」


杏樹は優弥が言っている意味がさっぱりわからない。


「え? 魔除けって……神社にでも行くのですか?」


杏樹が真顔で答えたので優弥は「プハッ」と噴き出した。


「アハハ、魔除けでわからないなら虫除けって言った方がわかるか? これから指輪を買いに行くんだよ」

「えっ?」


杏樹は想像もしなかった事態に驚く。


「だ、大丈夫です、必要ないです。それにまだ交際がスタートしたばかりだし」

「いや駄目だ。また成田みたいな客が来たら困るだろう? 明日からは左手の薬指に毎日はめてもらうから。もちろん仕事中もな!」

「仕事中も? そっ、それは絶対に駄目ですっ」

「なぜ?」

「先輩達に色々と詮索されてしまいますし左手の薬指だったら尚更……せめて右手の指じゃ駄目ですか?」

「駄目だ。左手の薬指だ」

「…………」


杏樹は思わず黙り込む。


「杏樹は好きなブランドはないのか? 何でも好きな物を買ってやるぞ」

「そう言われてもあまりにも急なので」

「今まで男におねだりとかしなかったのか?」

「……特には」

「杏樹は甘え下手なんだな。まあいい、これからは思いっきり甘えさせてやる」

「…………」


優弥がきっぱりと言い切ったので杏樹は何も言い返せない。


確かに今までの杏樹は恋人に対してほとんど甘えた事がなかった。

杏樹が付き合う男性は杏樹に対してなぜかいつも母親のような包容力を杏樹に求めてきた。それは相手が年上であってもだ。


(あれ? それってマザコンじゃない?)


杏樹は愕然とする。今まで自分は母親代わりにされていたのかと。


するとまた優弥が言った。


「ほら横浜に着いちゃうぞー早く探せー。探さないと俺が選んだブランドショップへ連れて行くぞー」


優弥がからかうように言ったので杏樹はムッとしてスマホを取り出す。


(欲しい物を何でも買ってくれるなんて信じられない! それにそんな事を突然言われても……)


そこで杏樹は今自分がどんな指輪を指にはめたいかをイメージしてみた。


(ずっと欲しかったのは誕生石の指輪だけど地金はやっぱりゴールドがいいなぁ……でもそんな指輪ってあるの?)


杏樹は『アクアマリンの指輪』『ゴールド』『横浜』と入れて検索をかけてみた。

するとアクアマリンの指輪がいくつもヒットする。それを更に画像検索に変えてみると沢山の指輪が表示された。

杏樹はそれを一つ一つ見ていく。


(うわー、いっぱいある……え? こんなに高いの? そっか、今は金は値上がりしてるからなのね。それにしても高すぎる―、だからと言ってプラチナ替えても高いだろうし……ああ、だから正輝はシルバーを選んだのね……)


杏樹は納得する。

その時杏樹の視線が一枚の画像に釘付けになった。


(これ素敵……)


それはシンプルな細身のアームに一粒のアクアマリンがついた指輪だった。

アクアマリンの両脇には小粒のダイヤが1つずつついている。アクアマリンは吸い込まれそうな深みのある水色でため息が出るほど美しい。これなら派手過ぎないし仕事中に着けていても気にならないデザインだろう。


画像に見とれている杏樹に気付いた優弥がチラリと杏樹の手元を見る。そこに指輪が映っているのを見て言った。


「それが気に入ったのか?」

「あ、はい……これなら仕事中にも着けられそうです」

「それは何ていう石?」

「アクアマリンです。私の誕生石なんです」


そこで杏樹は価格をチェックする。その指輪の金額はなんと128000円だった。


(嘘っ! こんなに高いの?)


「それはどこの店のだ? 店の住所を教えてくれ」

「い、いえ……やっぱり違うのがいいです。他も見てみます」

「値段は気にするな。俺は本当に気に入った物を杏樹に着けて欲しいんだ」

「でもこれはちょっと高過ぎます」

「店はどこ?」


優弥が聞く耳を持たないので杏樹はしぶしぶ住所を教える。

杏樹が一目惚れした指輪は元町商店街にある『ビジューマツクラ』という店の品だった。


「元町だな、りょーかい」


優弥はそう呟くと元町へ向かった。


元町へ到着すると優弥は商店街の近くに車を停める。そして二人はすぐに『ビジューマツクラ』へ向かった。

『ビジューマツクラ』の店舗は真白な漆喰の外壁にパステルピンクのドアと窓枠がついたとても可愛らしい店構えだった。


「凄く可愛い!」


杏樹のテンションが上がる。そこで二人は店に入った。


「いらっしゃいませ」


店内に入ると40代半ばの女性スタッフが二人を出迎える。


「こんにちは。実はネットで見た指輪を見に来たのですが」

「あら、ホームページをご覧いただいたのですね、それはありがとうございます。どの指輪でしょうか?」


杏樹はすぐにスマホの画像を見せる。


「ああ、アクアマリンですね。今ご用意しますのでどうぞこちらへおかけ下さい」


女性スタッフに案内されて二人はカウンターの前に座った。

そこで女性スタッフが二人に名刺を渡す。


「私、店長の松倉美樹(まつくらみき)と申します。今ご用意しますので少々お待ち下さいませ」


松倉はそう告げると指輪を取りにショーケースへ向かった。


しばらくして戻って来た松倉は黒いベルベットのジュエリートレーを二人の前に置いた。

そこには杏樹が一目惚れした指輪の他に少しデザインの違う指輪が3点置かれていた。

どれもイエローゴールドにアクアマリンが載ったタイプだ。松倉が気を利かせて選んだのだろう。


「他にも色々あるんですね」

「はい。今はこういった華奢なタイプがお若い方達には凄く人気で色々ご用意してございます」

「なるほど」


そこで優弥が杏樹に聞いた。


「どれがいい?」


杏樹は他の3点の指輪の値札を見て驚く。それは最初に杏樹が選んだ指輪よりも更に高かった。

悩んでいる杏樹を見た松倉はこう説明する。


「ここにある石はアクアマリンの中でも最上級の品質と言われている『サンタマリアアフリカーナ』という種類なんです。普通のアクアマリンよりも色が濃いでしょう? まるで海の深いブルーをそのまま石に閉じ込めたような神秘的な色合いがとても人気なんです。この石は年々採掘される量も減ってきているので希少性も高いんです」


それを聞いた優弥は感心したように頷いた後もう一度杏樹に聞いた。


「どれでもいいんだぞ? 好きなのを選んで」

「……やっぱり最初のがいいです」


杏樹はやはり最初に一目惚れをしたシンプルなアクアマリンのリングを選んだ。

優弥はその指輪をトレーから外すと杏樹の左手を取り薬指にはめてくれた。すると指輪はサイズ直しがいらないほどぴったりだった。


「あら、ピッタリ! サイズ直しも必要ないみたいですね」

「じゃあこれをいただきます」

「ありがとうございます。そのまま身に着けていかれますか?」


優弥は杏樹に確認する事なく言った。


「はい、このままで」

「承知いたしました。では今お会計の準備をしてまいりますので少々お待ち下さいませ」


店主の松倉は一旦席を外す。

そこで杏樹はおずおずと優弥に聞いた。


「本当にいいんですか? こんな高価なものを?」

「杏樹がこれを気に入ったんだから問題ないさ。まあ君がどうしても気後れするって言うんなら今度ベッドの上で沢山奉仕してくれればいいさ」


優弥は意地悪く杏樹の耳元でそう囁く。

すると思わず杏樹が優弥の腕を軽く叩いた。


「ハハハ、部下に叩かれたのは初めてだな」

「…………」


杏樹は真っ赤な顔のまま優弥を睨む。

しかし心の中ではこんな風に思っていた。


(ケチケチしていた正輝とは正反対だわ。正輝はデートの時いつも節約節約ってうるさかったけど、よく考えたら自分の物を買う時はパーッと散財してたし。節約志向なのは経済観念がしっかりしているからだと思っていたけれど全然違った。あぁ、私の人の見る目のなさって最悪……)


杏樹はすっかり落ち込んでいたが、とりあえず優弥に礼を言わなくちゃと思い口を開いた。


「ありがとうございます。大切にします」

「うん、気に入ったのが見つかって良かったな」


杏樹はコクリと頷くと嬉しそうな笑顔で薬指のアクアマリンをじっと見つめた。

ワンナイトのお相手はまさかの俺様上司&ハイスぺ隣人でした

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