「引越しどうですか?」
俺の耳に直接届く心友の声。この声が聞けただけでも安心するし、楽しくなってしまうし、辛いもの全てが吹っ飛ぶのはおかしいだろうか。
「今ダンボール箱から荷物を一つ一つ置いてる感じかな。」
俺__クロノアは彼__しにがみくんの質問に答えてゆっくりと立ち上がった。減っていくダンボール、増えていく置き物で部屋は片付いているのか片付いていないのか…。
そんな会話をしていると、スマホのブザー音が鳴る。それは俺のスマホからでもあったし、しにがみくんのスマホからでもあった。
スマホを取り出せば、通知が一つ。それはグループチャットに送られたもので、それは今俺たち日常組が苦戦している一つの10周年記念のネタ。 けど、そのネタを見た俺たち2人は顔をしかめた。
そりゃそうだろう?
送り主は______今、休止中のトラゾーなのだから。
「いい案ですけど…」
しにがみくんは笑顔なのか顔をしかめているのかわからない顔をしていて、少しこの案には抵抗があるらしい。
そりゃ、まぁそうだと思う。
「…歌は、どうだろうね…。」
彼から送られた10周年記念の案は、日常組のオリジナルソングを歌うという案だった。正直、いい案だけれどいい案ではない。矛盾しているが、本当に出る言葉がそれのみだった。
今はネタがない状況だし、ここにみんながいればその案に面白い案だと素直に笑い合えただろう。けれど、みんなは今思い詰めているしトラゾーも休止中。トラゾー無しの歌だなんて、気持ちがこもっていない歌なんて、そんなの日常組と言えるのだろうか。
「…これには、断りをいれるしか______」
しにがみくんが断りをいれようとキーボードに指を持っていったときだった。スマホの振動と同時に、トーク画面に表示された一つの返事。
『わかった。それ採用。』
送り主は_____ぺいんとだった。すぐの採用の返事にしにがみくんは「はぁ?!」と素っ頓狂な声を出しながらキーボードで文字を打つ。そして、俺のトーク画面にはしにがみくんの返事が追加された。
『ちょっと待ってください!トラゾーさんいないのに…それに、今から連絡は難しいんですよ?!』
焦った顔をしたしにがみくんを見て、俺もトーク画面に返事を追加する。
『確かにいい案だし、採用したいけど…俺も歌はみんなが揃ってからの方がいいと思う。』
そこには既読3の数字がついていた。しにがみくんと顔を合わせながらも、時々スマホの画面を見る。この沈黙の時間が長く感じたのは気のせいだろうか。相手の顔もまともに見れなくて、でも話しかけることもできなかった。
ふと、またブーッとスマホが振動する。
『確かにトラゾーはいないけどさ、じゃないと視聴者さんが悲しんじゃうよ。』
確かに、なんて思ってしまった。
今俺たちがここで頑張らなければ、妥協しなければ、協力しなければ、支えなければ、笑顔にならなければ…今この場を乗り越えなければ、俺たちは成長できやしないし視聴者さんの嬉しいコメントも、楽しそうな反応も俺たちは見れなくなる、感じなくなるのだから。
ふと、しにがみくんがキーボードを打つ姿を目にする。
そして、トーク画面に加えられた一つの言葉。
『じゃあ、また会って話しませんか?』
そのしにがみくんの顔は真剣だけどこうやってみんなでまた話せるのが嬉しいのか、少し口端が上がっているような気もした。
そのしにがみくんを見て、俺はなんだか少し心が軽くなった気がした。
多分、俺もしにがみくんと同じ気持ちだからなのもあると思うけど…みんな、同じ気持ちだって思ったら自然と心が軽くなった。
コメント
9件
投稿感謝です!✨ メンバーそれぞれの想いが 細かく書いていてマジで天才です! 続き楽しみにしてます!(*´꒳`*)
メンバーが流石に解釈一致すぎてやばいです…(訳︰神ですね)
最高です、師匠! 続き楽しみ!