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シャーリィの言葉に疑問を抱いたカナリアは、更に深く突っ込んだ話をすることを選んだ。
「今は、と言ったわね。何か考えがあるのかしら?」
『はい、少なくとも今はまだ私達姉妹の生存を大々的に公表するつもりはありません。何れその様に動く時が来るまでは、お姉様にのみ打ち明けた状態を維持したく思います』
「それは構わないけれど、黄昏の件は?」
『しばらくは保留にして頂きたく。何れ私達姉妹が表舞台へ躍り出た時、町の保護を宣言してください。アーキハクト伯爵家の遺児を保護して、派閥の長として遺児が作り上げた街を派閥で保護する。不思議な話ではありません』
「貴族令嬢が町を作り上げるなんて話自体が不思議な話なのよ。ただ、それだとうちの派閥が目を付けられるわ」
『問題があるのですか?黒幕が誰か知りませんが、間違いなく目的のひとつはカナリア様の、レンゲン公爵家の弱体化です』
「どちらにせよ、牙を剥くと」
『まだ先のお話ですよ、お姉様。それに、私達の後ろ楯になってくだされば相応の利益をお約束できます』
「シャーリィ貴女……復讐劇を貴族同士の抗争にするつもりね?」
『残念ながら、高位貴族が関与しているのは間違いありません。今回はカナリアお姉様を悩ませる寄生虫の排除をお手伝いしますので、その時はよろしくお願いします』
「私が貴女達姉妹を売るかもしれないわよ?」
『その場合何の利益が?』
シャーリィは不思議そうに首をかしげた。レイミはそんな二人のやり取りを見つつ、用意された紅茶を楽しんでいた。
「ないわね、下手なことをすれば逆に追い込まれる」
『詳しい話は直接お会いしてからしたいと思います。ガズウット男爵の領邦軍は此方で対処しますので、お姉様は男爵の処断についてお考えを。レイミがお渡しした資料があれば問題ないと考えますが』
「レイミも言っていたけれど、本当に大丈夫なの?貴女を疑う訳じゃないけれど、男爵は単独で三百以上の兵を集めることが出来るわ」
『先日約一千の敵を退けたばかりです』
心配するカナリアを相手に、シャーリィは何事もないように返した。
「は?一千を?貴女達の戦力は?」
「四百以下ですね」
シャーリィに代わりレイミが答えた。その言葉を聞いてカナリアは呆れた表情を浮かべた。
「つくづく、貴女達がお姉様の娘だと思い出させるわね。分かった、そちらは任せるわ。貴女達に責が及ばないようにしましょう。ガズウット男爵は爵位を剥奪する。その後は一般人よ、好きにしなさい」
『ありがとうございます。また改めてご挨拶に参りますね』
「貴女達姉妹は、黄昏の行商人と言うことにしておくわ。怪しむ者も出てくるでしょうけど、しばらくは誤魔化せるわね。だから、礼服は不要よ」
『では今回のレイミと同じ村娘スタイルで参りますね』
「そうしてちょうだい。連絡はマルテラ商会を使えば漏れが無いわ」
『分かりました。ではカナリアお姉様、近日中に参りますね』
「楽しみにしているわ」
水晶が輝きを失い、レイミが懐へ戻す。
「カナリア様、然り気無くマルテラ商会を巻き込みましたね?」
「だって、貴女の言葉を聞いたのよ?下手に口封じをするより、共犯に引きずり込んだ方が有益よ」
「まあ、確かに彼女が味方になってくれたら有り難いですね」
しばらく後、待たされていたチェルシーが再び部屋へ。
「待たせてしまってごめんなさいね、チェルシー」
「お望みならば幾らでも待たせていただきますわ。レイミお嬢様、伯爵令嬢とは露知らず数々のご無礼、お許しください」
深々と頭を下げるチェルシー。
「頭を上げてください、チェルシーさん。堅苦しいのは苦手なんです。どうか、先程までと変わらない対応を望みます」
「しかし……」
「お願いします」
今度はレイミが頭を下げたので、チェルシーも慌てた。
「わっ、分かったわ!これまで通りにするから、頭を上げて!」
そんな二人のやり取りを面白そうに眺めていたカナリアは、手に持った赤い扇を静かに開く。
「良いものが見られたわ。貴女が慌てるなんて滅多に無いもの」
「お戯れを、女公爵閣下」
困ったような笑みを浮かべるチェルシーを見て、広げた扇で口許を隠し目を細めるカナリア。
「分かっていると思うけれど、レイミの件は他言無用よ?」
「はい、女公爵閣下。私は口が固いことに定評がありますので、ご安心を」
「そう、なら今後貴女を窓口にするわよ。構わないわね?」
「はっ、しかし……」
「大丈夫、ちゃんと利益もあげるわ。レイミ、どう?」
「はい。チェルシーさん、此方を」
レイミが差し出した植物紙の書類を困惑しながら受け取るチェルシー。
「これは?」
「『黄昏商会』のマーサ会長から預かった協定書です。納得していただけるなら、西部ではマルテラ商会のみと取引を行うことが明記されています。つまり、黄昏の産物はマルテラ商会にしか卸しませんし、マルテラ商会以外からは購入もしません」
それは『マルテラ商会』にとって大きな利益となる話であった。帝都で人気を博している黄昏との取引を独占出来ることを意味しており、西部に存在する他の商会に対して大きなアドバンテージを得ることになるのである。
「西部での取引を、うちとだけ?独占するわよ?」
「構いません。私達は、折角ならば協力者と一緒に利益を出していきたいと考えています。商売以外でお手を借りることがあるかもしれませんが、協力していただけるならば相応の対価をと」
「良かったじゃない、チェルシー。益々儲けられるわよ?」
「もちろん協力していただけるのです。ちゃんと配慮した値段で卸させていただきますし、西部の産物もたくさん購入させていただきます。黄昏の町はまだまだ発展途上ですから、必要なものがたくさんありますからね」
「これは断れないわね、チェルシー。まさかうちの可愛い従姉妹のお願いを無下にはしないわよね?聡明な貴女なら判断を誤ることはないと確信しているわ」
「あっっ、あはははっ……困りましたね、これでは断れないじゃないですか……」
自分が入る隙間のはない二人だけの会話と結論に、困ったように力無く笑うチェルシー。
商人として断るには余りにも惜しい対価を提示され、黄昏ひいては『暁』との協力関係を結ばされる羽目となった『マルテラ商会』。
自分の主人と『暁』の代表の関係性を考え、どう報告すればと頭を悩ませ、以後日常的に頭痛を抱えることになるチェルシーであった。