mob「…あ、幹部の皆様!お帰りなさいませ…!」
一人の兵士が俺らの帰りを出迎える。
tr「ごめんごめん、待った?」
mob「いえ!こちらこそ、急に呼び出してしまい申し訳ございません… 」
sn「クロノアさんはまだ、中にいるんですよね?」
mob「はい…相当な破壊音や叫び声が響いているので、兵達は完全に怯えきっていて…」
pe「大丈夫、俺らが何とかするから!」
mob「あ、ありがとうございます…!」
俺らを出迎えてくれたその兵士は、
安堵したのか目に涙を浮かべている。
それほど怖い思いをしていたのだろう。
彼はハッとしてそれを袖で拭き取り、
改まった顔をして俺らに向き直った。
mob「クロノア頭領様は、城の自室に居られます。早速、向かって頂いてもよろしいでしょうか…?」
pe「あぁ、行こう!」
tr「クロノアさんには、聞きたいことが沢山ありますからねぇ。」
sn「僕達の大切なリーダーを、安心させに行きましょう!」
俺らは、おー!と意気込んで、
兵士と共に城へと歩んでいった。
城へと着いた俺らは、
早速クロノアさんの自室へと向かう。
クロノアさんの自室に近づいてきた所で、
トラゾーが急に足を止めた。
sn「どうしました?トラゾーさん。」
tr「あ、いや…なんか、すごい音しない?」
トラゾーが手を耳に当てそう言う。
俺としにがみ君も真似して耳をすますと、
奥から、ガシャン、ドン、グシャ、
という異様な音が響いていた。
音の方向には、クロノアさんの部屋がある。
mob「城へ帰られてからというもの、ずっとこの音がここら一帯に響いているんです…」
sn「…思った以上に酷いですねこれは…」
pe「あぁ…急ごう。」
俺らは少し歩むスピードをはやめ、
クロノアさんの部屋へと直行する。
その間も、あの音が止まる気配は一切ない。
ようやく部屋の前までやって来たが、
結局、音は一度も鳴り止まなかった。
今もなお響き続ける騒音に、
俺らは思わず顔をしかめる。
pe「…君はもう、持ち場に戻って大丈夫だよ。ここまで連れてきてくれてありがとう。」
mob「はっ、はい!あ、あとは、よろしくお願いします…!」
兵士が何度も頭を下げながら
持ち場に戻っていくのを見守ったあと、
俺らは決意の表情で扉を見つめる。
トラゾーが扉をノックしてみる。
しかし、どうやらクロノアさんには
聞こえていないようで、
音は絶えず永遠に鳴り続けていた。
tr「…開けるぞ、いいな?」
トラゾーの問に、
俺はしにがみ君と同時に頷く。
トラゾーがゆっくりと深呼吸をし、
ドアノブを強く握ったあと、
勢いよくその扉は開かれた。
中は、想像以上の地獄絵図だった。
壁に異様なほどつけられた傷、
引き裂かれたカーテンやシーツ、
倒されたペン立てと花瓶に、
そこら中に飛び散っている
赤色の鮮血の血しぶき。
その血しぶきの出処は、
部屋の真ん中で頭を抱えうずくまる
クロノアさんの体中にある傷口からだった。
小さくうめき声を上げている彼は
異常なほどに息が上がっており、
時おりカッと目を見開いたかと思えば、
苦しそうな掠れた叫び声を上げ
自分の腕を引っ掻き、床を強く殴った。
そんな様子を見た俺としにがみ君は
想像以上の光景に唖然と立ち尽くし、
トラゾーが必死の形相で
クロノアさんに駆け寄り止めようとする。
tr「クロノアさん!一回落ち着いてください!!」
kr「…っ、ぐぁあ…あぁ…!」
トラゾーがクロノアさんの腕を掴むが、
クロノアさんは聞く耳を持たず
力づくでその手を振り払う。
言葉の通り、正気の沙汰ではない。
sn「…く、クロノアさん…? 」
tr「だから、落ち着きましょうって!みんな怯えてますから!!」
トラゾーは先程よりも強引に、
クロノアさんを羽交い締めにし
完全に動けなくする。
トラゾーの腕の中で暴れるクロノアさんは、
何故か少し悲しそうに見えた。
俺はそんなクロノアさんをみて、
思わず呟いた。
pe「…クロノアさんと、らっだぁは…ブルーデーモン、なんですか?」
それを聞いた瞬間、
クロノアさんがピタリと動きを止めた。
とても長く感じるような数秒の静寂の後、
クロノアさんはガタガタと体を震わせながら
恐怖に染まりきった怯えた顔を
ゆっくりとこちらに向けた。
kr「…ブルー、デーモン…青い、鬼… 」
kr「…俺、は…ぁ…」
しかし、その言葉を残して、
クロノアさんは気絶してしまった。
pe「えっ、ちょ、クロノアさん?!」
sn「ちょっとぺいんとさん何地雷踏んでるんですか!!」
pe「いやいやいや俺全っ然そんなつもりなくて…!」
tr「とりあえず、クロノアさんを一旦医務室に運ぼう。」
sn「そうですね…」
pe「…な、なんかごめんなさいクロノアさん…」
トラゾーがクロノアさんを肩に担ぐ。
俺らはそのまま、
足早にクロノアさんの部屋を後にした。
医務室の前までついたとき、
しにがみ君が扉をノックする。
どうぞー、という医療班の声が響き、
ガラガラという音を立て引き戸を引いた。
mob「…あ、幹部の皆様!どうなさいましたか…って、クロノア統領?!」
一人の班員が慌てた様子でこちらに近寄る。
tr「多分、なにかしらで精神に異常をきたしちゃったのかな?部屋で暴れてたから、連れて来たんだけど…」
mob「なるほど…クロノア統領のこと、噂には聞いていましたがここまでとは…」
mob「とりあえず、こちらのベッドへ。トラゾー様もお疲れ様です。」
tr「ん、ありがとう…よっこらしょっと。」
トラゾーがクロノアさんをベッドへ寝かす。
クロノアさんは気絶しているにも関わらず、
どこか苦しそうな表情をしている。
mob「…多少の熱も出ているようですね…それに、この傷…これは、ご自身で?」
sn「はい…自分の部屋で、壁とか物とか体とか、手当り次第傷つけてて…」
mob「…なるほど、そうですか…」
班員が、顎に手を当てうーんとうなる。
mob「大事には至らない傷ばかりなので、直ぐに治るとは思いますが… 今までにも、同じようなことはありましたか?」
pe「いや、俺達が見てた限りはなかったと思うけど…」
mob「…そう、ですか…」
班員はしばらく悩んだあと、
こちらに向き直り話し始めた。
mob「…主に考えうる可能性として、今まで底知れないほどのストレスを溜め込んでいて、何らかのきっかけでそれが爆発してしまったか…」
mob「それとも、一度にとても多大なストレスやトラウマ、恐怖症による恐怖のようなものを受けてしまったショックによるものか、の2つがあると思われます。 」
mob「結果、精神が持たず今のように周りを傷つけ、混乱しているのかと…」
mob「…すいません、僕は精神科の専門ではないので、詳しいことは分からないのですが…」
班員が申し訳無さそうに答える。
その間にも、クロノアさんの
腕や体にある傷を丁寧に治療してくれている。
sn「いえいえ、診てもらえるだけで十分ありがたいですよ!」
mob「ありがとうございます…とりあえず、傷の処置は完了しました。もうじき、目も覚めるかと…」
そう話していると、
クロノアさんがうめき声を上げ
ゆっくりと目を開いた。
kr「…ぅ、……」
pe「あ、クロノアさん。おはようございます!」
俺はクロノアさんの顔を覗き込む。
その瞬間、クロノアさんは
驚いた顔をして目を見開いた。
kr「…っ、ぁあ!!!」
クロノアさんは起き上がるのと同時に、
まるで拒絶するかのように
俺の体を強い力で押し倒す。
pe「うぉあ?!」
俺はよろめき尻もちをつく。
クロノアさんはベッドの上で息を荒らげ、
怯えた様子で俺らを強く睨み警戒している。
tr「ちょっと、何してるんですかクロノアさん!」
トラゾーがまた羽交い締めの態勢に入る。
しかし、クロノアさんはすぐに
我に返り俺らを見渡した。
kr「…え、ぁ………」
sn「…く、クロノアさん、僕らのこと、分かりますか…?」
kr「…こ、こは……?」
pe「…ってて…医務室ですよ。クロノアさん、すっごいボロボロだったんで…」
kr「…あぁ、そうか…ごめん、ありがとう。」
tr「…まぁとりあえず、なんか飲み物とか飲みます?俺持ってくるんで。 」
kr「…ごめん、ありがとう…えっと、それじゃあ、お茶貰ってもいいかな?」
tr「りょーかい、ちょっと待っててくださいね。」
トラゾーがお茶を取りに医務室を出る。
その後の沈黙で気まずくなった
俺としにがみ君は、クロノアさんと
少しでも会話をしようと試みる。
sn「いやぁ、でもほんと良かった…クロノアさんが元に戻って… 」
pe「ほんと、大変だったんすからね?トラゾーなんかすごい体張ってたし…」
kr「………うん。ごめん、みんな。」
pe「…あいや、そんな落ち込まなくても… 」
kr「医療班の方も、怪我の治療、ありがとうございました。」
mob「いえいえ、とんでもない…それよりも、クロノア統領大丈夫ですか?自室でとても苦しんでいたとお聞きしたのですが…」
mob「こんな沢山傷までつけて…もしかして何か、悩んでいることがあるのではないですか?」
kr「……………あぁ、いや……」
クロノアさんが気まずそうに下を向く。
何か、心当たりがあるのだろうか。
sn「クロノアさん、また、余裕がある時に話して欲しいです。クロノアさんに、何があったのか…」
kr「…うん、話すよ。いつか…」
pe「…クロノアさん……」
そんな時、医務室の扉が叩かれ
ペットボトルのお茶を持ったトラゾーが
医務室に入ってくる。
tr「めっちゃ近くに自販機あったからよかったわ。はい、クロノアさん。」
kr「…あぁ、ありがとう…」
tr「まぁ一旦、クロノアさんが落ち着くまで待ちましょう。多分、色々混乱してるだろうし…」
kr「ごめんトラゾー、何から何まで…」
tr「いやいや、全然…その代わり、落ち着いたらちゃんと話してくださいね?」
kr「…………………」
kr「…分かった、ちゃんと話すよ。」
クロノアさんは、決意の目を向けそう言う。
その後、俺らは少し雑談を挟み、
いつもの調子に戻ったクロノアさんから、
新たな真実を知ることになるのだった。
コメント
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自分の血確認したかったんかなぁ 自分は人間だって じゃあ適合しちゃったの^ラ^なのかな 知らんけどpnさんの精神状態も程々にどんどん酷くなりそうやな(父さんやら拒絶反応やら)