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刻の碧律

110 - 第7話:記憶は味に、言葉は湯気に

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2025年04月16日

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第7話:記憶は味に、言葉は湯気に


🌫️ シーン1:少女、現る


その日、昼下がりの《碧のごはん処(ミドリ)》に、一人の小さな影が入ってきた。


フード付きの上着に身を包み、碧素模様のスカーフを顔半分まで巻いた少女。


年は十歳ほど。だが、その瞳の奥には深く刻まれた記憶の影が宿っていた。


「……いらっしゃい」


タエコが声をかけても、少女は返事をしない。ただ、カウンターの端に静かに座った。




🧑‍🍳 シーン2:料理の中にある言葉


少女の碧素データを読み取ったすずかAIが静かに告げる。


「碧素共鳴:極端に静か。未解読の記憶反応あり。精神的沈黙状態。」


「……せやな。しゃべられへん時は、味にしゃべってもらお」


タエコは端末にそっとコードを走らせる。


《FRACTAL_COOK_MODE=SOUL_TRACE》《EMOTION_OUTPUT=微》


柔らかい青の光をまとった白粥、あたたかい根菜の碧煮、そして記憶をほどく碧汁。


「“しずかごはん”や。よう冷えてる心に、よう効くで」




🍽️ シーン3:湯気の中の感情


少女は言葉なく、そっと箸を手に取った。


ひとくち。ふたくち。


碧素の粒子が、彼女の体内でゆっくりと流れ出すように、微細な反応が厨房の端末に映る。


すずかAIが静かに告げた。


「感情共鳴:悲しみ、安堵、微笑の兆候。回復傾向にあります」


少女は最後のひとくちを終えると、少しだけ、目を見開いた。


その顔に、ようやく“今の空気”が宿る。


言葉はない。でも、それで十分だった。


「……おかわり」


少女が言ったわけではない。


でも、タエコはゆっくりと彼女の前に、二杯目の碧粥を置いた。


「うちは、声より湯気の方が信じとるんや」




言葉がなくても、湯気が語る。

そして、味が“ここにいてええよ”と伝えていた。

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