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「これが……“楽園計画”?」
ノートパソコンの画面に映し出されたのは、見覚えのないロゴマークだった。
円の中心に刻まれた“Eden Protocol”の文字。
それは、これまで何百もの任務資料を見てきた中で、ただの一度も現れたことのない機密中の機密だった。
「隠しサーバー内にあった。加賀見の残した暗号から解読した“鍵”だ」
翠は手際よくファイルを開き、さらに内部へと潜っていく。
その中には、衝撃的な内容が並んでいた。
■ 楽園計画 - Eden Protocol
概要:人類における“感情”の最適化による秩序の確立。
目的:無用な衝突を防ぎ、管理された幸福を提供するための“理想的人間兵器”の創出。
方法:
・殺し屋としての教育
・感情遮断薬の投与
・親密な“依存対象”とのペア形成
・対象ペアの反応記録を収集
・感情変異の研究による“選別”
最終段階:適応個体による社会内分布。感情制御可能な人間のみを選別して残す。
「……つまり、私たちは……“試されてた”……」
栞の手が震える。
指先が冷たくなっていく。
「私たちが苦しんで、誰かを好きになって、誰かを殺して……
その“すべての記録”が、“楽園”を作るための研究だったってこと……?」
翠は黙っていた。
けれど、その拳が机をきつく握りしめているのが、答えだった。
「この計画を止めなきゃ……! 誰かが、私たちと同じように“選ばされた人生”を歩まされる前に──!」
栞の声は怒りで震えていた。
だが、その背に触れた翠の手は静かだった。
「……栞。これを止めるってことは、“すべての真実”を暴くってことだ。
お前が“生まれてきた意味”も、“存在そのもの”も──すべて、嘘だったと認めることになるかもしれねぇ」
「それでもいい。
“嘘の上”に生きるくらいなら、私は“無意味”を選ぶ。
でも、あなたと一緒に“選び直せる未来”があるなら……私は、それでいい」
翠はゆっくりと、笑った。
それは、どこか懐かしい笑みだった。
初めて“人間らしさ”を取り戻した男の、ひどくあたたかい顔だった。
「──よし。だったらやるか。“楽園”ごと、ぶっ壊してやろうぜ」
***
数日後。
ふたりは“楽園計画”の中枢が存在する研究施設の位置を突き止めた。
それは、地図にすら載っていない場所。
人工島として廃棄されたとされていた“第零区域”。
「迎え撃ってくるぞ。今度は本気で、俺たちを消しに来る」
「それでも、行くよ」
「お前はほんと、もう誰よりも“殺し屋”だな」
「……違うよ。私は、ただ“あなたと生きたい”って思ってるだけ」
ふたりは、命を懸ける覚悟を胸に、
世界の“設計図”を壊すために進み始めた。