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紫陽花
「ピンクの紫陽花は恋をした人が水をやると咲くのよ」
小さい頃、母に聞いた話だ。
母は花が大好きな人だった。
父も花が好きで、偶然立ち寄った花屋を営んでいる母に一目ぼれし、互いに惹かれて結婚したと聞いた。
母は顔立ちが整っていて、学生時代のバレンタイン時期の母の靴箱は手紙やチョコで埋まっていたほど。けれど母はすべての告白を断ってきていたんだと母から聞いた。
一番怖いのはその母に告白をした男子は全員不幸な出来事に遭っているらしい。
母の花屋には色とりどりの紫陽花が棚一面に売ってあった。
でも一番売ってあったのは青色だった。
もちろん他のバラや菊などもあったが、母も父も一番好きなのは2人を紡いでくれた紫陽花。
父と母の結婚式にも母は紫陽花のブーケを選んだと意気揚々と語っていた。
そんな大好きな友人や2人の両親、紫陽花に囲まれた結婚式の数年後私が生まれた。
母も父も私を一心に愛してくれた。
私も生まれた時から花と過ごしていて、母の花屋でお手伝いも時々していた。
珍しいピンクの紫陽花が入荷され、私はまだ見たことなかった色なので、
「なんでこの紫陽花はピンクなの?」と興味津々に母に聞いたそう。
「ピンクの紫陽花は恋をした人が水をやると咲くのよ、お母さんで言ったらお父さんを想いながらお水をあげたら紫陽花にも気持ちが届いてピンクになっちゃうんだよ」
と、小さい頃に一番覚えている母の言葉だった。
そんな私は高校生になり、初恋の相手ができた。その事を両親に伝えると母は気づいてたよ!と予想外の反応だったが、父は驚き、舞い上がりすぎてテーブルの角に足をぶつけていて悶絶していた。そんな2人に私はそっと背中を押された気がした。
母からはお花をあげてみたら?こんな時も紫陽花は役に立つのよ!と意気揚々に
「白か緑の紫陽花をあげて告白してみたらどう?
白の紫陽花の花言葉は寛容、緑はひたむきな愛だからぴったりなんじゃない?白は普通恋人に向けてあげるものだけど大丈夫だと思うよ!」
と、父も母も背中を押してくれて心強かった。それと、今まで振られるのが怖くて閉ざしていた告白してみようという気持ちがわいてきた。
牡丹が咲き狂っている春の終わり。
「好きです付き合ってください」
答えが来るのを待つ数秒間。
たった数秒なのに花が芽吹く時よりも長く感じた。
風の音は何も聞こえない。放課後の2人きり、いつもの校門の前。
ああ、私の初恋は叶わないのかな。
もういっそ私を振ってください。そう思って答えを待つ。
『俺も好きです。もちろん、よろしくお願いします。』
…はっきり聞こえた一言に目を見開いた。
牡丹が祝福してくれているかのような2人だけの帰り道。足取りは軽かった。
家に帰ると2人はまだ帰っていない様子。
やることも特にないので母の紫陽花の水やりに向かった。
母の紫陽花は青色の紫陽花ばかり。でも私が水やりをするとピンクになってしまうんだ。やっぱり恋した人が水をやるとピンクになるのかなと昔のことを思い出し、懐かしんだ。
母からの電話が来た。
父が事故に遭ってこれから手術らしいが、成功する確率は限りなく少ないと医者が告げたと。
母と一緒に病院に向かうため、母を待った。数分しか経っていないのにもう数時間ほど待ったように感じた。
数十分後、やっと母が帰ってきた。
安心する暇もなく、父が手術をしている病院に向かった。
・・・
手術は失敗。私はその場で泣き崩れた。医者が申し訳なさそうにしているが母だけは泣かなかった。
父の亡骸はとても他の人に見せれない状態だったので、そのまま火葬。遺骨は母がもらって仏壇に飾った。手を合わせ。線香の匂いが鼻に鮮明に残っている。
父の遺骨は母が持っていって墓に埋めたのか、いつの間にかなくなっていた。
また青の紫陽花が増えた気がする。
気の所為だろうか。
覚えている限り、母が友達とあってくると出かけた次の日、その友達が失踪。母がまた、別の同級生が事故で亡くなったらしい。母がその訃報きくたび、新しい青い紫陽花が増えている気がする。
初めは一株。 五株。十、 二十、 最終的に二十五株と増えていった。
なぜか胸騒ぎがする。
勇気をだし、青の紫陽花を愛おしく眺めている母に聞く。
「青の紫陽花はどうして…青くなるの?」
母は少し動揺したようだが、直ぐに
「青はね……人の想いが、いちばん濃く残る色なの」
と不気味な笑みを浮かべ答えた。
そこからの記憶はない。
今わかることは白い菊が私の目の前に1輪飾られていること、周りには咲き乱れている青に変わりかけの私から芽吹いている綺麗で、母の、大好きな青の紫陽花。
母の満足そうな嘲笑が聴こえた。
ひとひら、紫陽花の花びらが私に舞い落ちた。
その瞬間、私の世界の色は抜け落ちた。
〜終〜