TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

ワンナイトのお相手はまさかの俺様上司＆ハイスぺ隣人でした

一覧ページ

「ワンナイトのお相手はまさかの俺様上司＆ハイスぺ隣人でした」のメインビジュアル

ワンナイトのお相手はまさかの俺様上司＆ハイスぺ隣人でした

第5話 - 第5話

540

2024年10月01日

#大人の恋愛

#オフィスラブ

#イケメン

#ハッピーエンド

#俺様

#大人ロマンス

瑠璃マリコ

シェアする

この作品はいかがでしたか？

540

瑠璃マリコ

プロフィール

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール

テラーノベルのスクリーンショット

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

ホーム

検索

通知

本棚

午後3時になると店のシャッターが下り店内に客は一人もいなくなった。

ここからはテラーや後方事務が総動員で今日一日の勘定をピタリと合わせに入る。

取引伝票の数字と現金や有価証券の数字が１円単位で一致しなければ大変な事になるのだ。

もし少しでも合わなければ残業してでも原因を見つけ出し合わせる必要がある。

ここ最近はほぼ毎日勘定は合っていた。しかしなぜか今日は2000円合わない。色々調べてみるとその原因はどうも窓口にあるようだ。

そこでベテランテラーの美奈子が窓口にいる全員の伝票をチェックする。

「杏樹はよし、真帆もよし……あとは…西野さんの伝票も見せて貰える？」

この日一番端の窓口にはパートの西野（にしの）が座っていた。

「あ、はい、お願いします」

そこで美奈子が西野の伝票を一枚一枚めくっていく。そしてすぐに「アッ」と叫んだ。

その声にフロアの課長や課長代理、後方事務の女性社員達が集まって来る。

「これじゃない？　この小切手分の2000円のオペレーションがまだなんじゃないかな？」

「アッ、すみませんっ、後で入力しようと思っていてすっかり忘れていました、申し訳ありませんっ」

そこで周りからは一斉に、

「「よかったー」」

という声が飛んできた。

西野は泣きそうになりながら皆にぺこぺこと頭を下げている。

すると課長の北門が西野に言った。

「西野さん大丈夫だよー、こんなミスはちょくちょくある事だから気にしない気にしない、大丈夫大丈夫！」

そして北門課長は今度はフロアにいる全員に言った。

「さー、じゃあさっさと片付けて早帰りしましょう」

「「「はーい」」」

北門課長はニコニコしながら自分の席へ戻って行った。

杏樹はこの職場のこんな雰囲気が好きだった。

23区内の比較的規模の大きい支店なのに行内の雰囲気は人情味に溢れている。特に杏樹がいるフロアはアットホームな雰囲気で仕事がしやすい。

それはこのフロアを取りまとめる北門課長の人柄によるものなのかもしれない。

北門課長は部下たちの事をまるで自分の娘のように可愛がってくれた。少しでも元気がないと声をかけてくれるしミスを犯しても一方的に咎めるような事はしない。もちろん褒める事も忘れない。

杏樹はそんな上司がいるこの職場が大好きだった。

その後無事に勘定が合うとパートの西野はホッとした様子で一足先に仕事を上がった。

「良かったねー、残業にならなくて」

「はい、ホッとしました。美奈子先輩さすがです」

「フフッ、年の功ってやつよ」

謙遜しているが先輩の美奈子は有能だ。

そんな尊敬出来る先輩と肩を並べて働ける事も嬉しい。

自分の窓口の締めを終えた杏樹は元方を務める美奈子の現金締めを手伝い始める。

今日は居酒屋へ行くので少しでも早く上がりたい。

その時得意先回りを終えた営業職の社員達が次々に戻って来た。

彼らは続々と集金袋を美奈子の所へ持ってくる。その中には正輝の姿もあった。

正輝の番が来ると美奈子が声をかけた。

「森田さんお疲れ様ー」

「お疲れ様です。お願いします」

正輝は美奈子に集金して来た現金袋を渡した。

美奈子は早速中の現金を数え始める。

少し離れたデスクの前にいた杏樹はなんとなく居心地が悪くて正輝に背を向けて現金を数え続けた。

正輝の方も意識的に杏樹を見ないようにしている。二人の間には目には見えない重々しい空気が漂っていた。

その時美奈子と正輝の会話が聞こえてきた。

「えーっ？　高橋屋さんのおじいちゃん入院しちゃったのー？　そういえば最近来ないな―って思ってたのよ」

「はい、なんか救急車で運ばれて脳梗塞らしいです」

「そうなんだー、じゃあおばあちゃんも大変だ」

「まあでも息子さんがしっかり蕎麦屋を継いでいるので店の方の心配ないみたいで良かったですよ」

「本当よねー、それなら安心して治療に専念できるもんねー」

美奈子は頷きながらふいに杏樹に話を振った。

「杏樹、高橋屋のおじいちゃん入院したんだってー」

杏樹は無視する訳にもいかず慌てて一万円札をバサッバサッと広げながら返事をする。

「それは大変でしたねー」

その時一瞬正輝の後ろ姿がこわばったように見えた。

（社内恋愛なんてしなきゃよかった……もう恋なんて懲り懲り）

そう思いながら紙幣を見つめる杏樹の視界が徐々に滲んでくる。

（あれ？　なんで今頃？）

気を抜くと一気に涙が溢れそうなので杏樹は必死に意識を紙幣に向ける。

二度数えたので既に枚数がわかっている札束をあえてトントンと揃えると再び扇のように広げて数え始めた。

（早くあっちへ行って、早くいなくなってよ……）

杏樹は涙をこらえながら必死にそう念じた。

すると用事を終えた正輝は一度も杏樹を見ないまま二階の得意先課へ戻って行った。

なんとか泣かずに済んだ杏樹はホッとしながら一万円札を100枚ずつ結束していく。

紙幣を結束する杏樹の手にはもの凄い力がこもっていた。