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「次、お願いします」
迅くんは亜蘭さんに指示を出した。
「これは会社の預金口座から、孝介さんの口座に振り込んだ履歴になります」
えっ、この履歴ってどうやって手に入れたんだろう。
「どうしてこんなものを加賀宮社長が?」
孝介がこれは作られたものだと主張している。
「それは《《こちら側》》に情報を提供してくれた方がいるからです。額にして、三千万くらいですか……?」
三千万!!?そんなお金、何に使ったの!?
お義父さんは手で顔を覆っている。
「孝介さんが横領している証拠はまだまだありますが、長くなってしまうのでもし必要であれば後で提示します。話は変わりますが、こちらは先日までお付き合いをされていた家政婦さんからの証言です」
美和さんの証言、あの人が素直に教えてくれたの?
「付き合っていた……。家政婦だと?」
お義父さんが顔を上げ、眉目がピクッと動いた。
「お前、まさかまだあの家政婦と!!さっき映っていた女と一緒だな!?」
えっ。お義父さん、美和さんのこと知っているの?
映像の中の美和さんの証言が始まった。
<孝介さんとは美月さんと結婚する前からお付き合いをしていました。彼が結婚してからも関係を続けていました。いつか別れるからって、俺が社長になったら美月とは別れて私と結婚するんだってその言葉を信じていました。今住んでいるマンションも孝介さんが私に買ってくれました>
こんな証言、彼女がするの?マンションを買った?
それって会社から横領したお金を使って?
疑問に感じたが、映像に映る女性は美和さん本人だ。
「美和《彼女》とは、別れたよ。もう……」
孝介の顔が真っ青だ。
「俺は美月から離婚してほしいなんて言われてない」
そう呟いた。
その時、迅くんと目が合った。
孝介とお義父さんに言わなきゃ!
「私は、孝介さんと離婚したいです。彼の浮気を直接知ったのは、私の通っている料理教室が偶然お休みになってしまって。自宅に帰った時でした。室内から……。孝介さんと家政婦さんの声が聞こえてきて。身体を重ねていました。その時、録音したものもあります。それに……。私は孝介さんから暴力を受けていました。気に入らないことがあると殴られたり、蹴られたり……。お前のことは最初から愛していないとも言われました」
「美月!!」
孝介から怒鳴られた。
しかしお義父さんは
「証拠はあるんだろう?」
もう諦めているようだった。
「もちろんです」
加賀宮さんは亜蘭さんに指示を出し、孝介と美和さんが裸で室内にいるところの映像や録音した音声、私が殴られた時の写真や、迅くんの主治医に診てもらった時の診断書を提示した。
あの時、先生に診断書まで頼んでくれていたんだ。
「今日も自宅に帰ったら、私の洋服が切り刻まれていて……」
写真を見せた。
「孝介さんとの未来は考えられません。離婚してください」
「こんなのプライバシーの侵害だ!!訴えてやる!」
孝介が震えながら、そう叫んだ。
「美月さんが不貞行為の証拠を集めようとしてカメラを設置したのは、有効な判断だと言えます。不貞行為は裁判上の離婚原因として規定されていますし、彼女は暴力も受けていました。生活するのに必要なお金も十分に渡されず、一週間もの間を千円で過ごせと言われたこともあるそうです」
迅くんが代弁し、私を擁護してくれた。
「孝介、お前!そんなことまでしてたのか!?」
さすがのお義父さんもこれだけの証拠が揃えられ、息子をかばいきれないようだ。
「そんなこと……」
孝介もそんなことはしていないとはっきり言えないみたい。
嘘をついたらさらに自分のしてきた悪事がバレるのではないかと思っているのかな。
迅くんは気にすることなく、話を続けた。
「裁判を起こしても良いと思いますが、時間もかかりますし、これだけの証拠があるんです。美月さんの気持ちは変わりませんし、孝介さんがイエスと答えてくれれば、穏便に《《協議離婚》》という選択もありますがいかがでしょうか?そもそも孝介さんは美月さんを愛していなかったわけですし、未練なんてありませんよね?」
この状況下でも、迅くんは笑みを浮かべている。
「……。ありません。慰謝料も支払います。ただ一つだけお願いがあります。美和の……。美和は責めないでください。美月と結婚をする前から俺が彼女をずっと引き止めていました。美和《彼女》の分の慰謝料も俺が払います。だから彼女のことにはもう触れないでください!」
そう言うと、頭を下げた。
孝介にとって、美和さんってそんなにも大切な人だったんだね。
「孝介、お前っ!!」
「父さんだって知ってるだろ!彼女を認めてくれなかったのは、父さんと母さんだ!家の都合で好きでもない女と結婚させやがって!」
孝介が声を荒らげた。
好きでもない女……。私がここに居るのに、本当に失礼な人。
「やめろ!加賀宮さんと美月さんの前だぞ」
迅くんはふぅと呆れるように息を吐いた後
「そちらの件は、ご家族間で話し合ってもらえればと思います。結婚していると知っていながらも不倫を続けた美和さんにも責任はありますし、個人的な意見としては甘えた話だとは思いますが」
そう言って迅くんは、孝介に視線を向けた。
「話を戻します。九条グループとは、良好な関係を築きたかったのですが、次期社長である、孝介さんがこのようなお人柄ではこちらとしては安心してお取引きができません。お父様が社長でなければ、横領ということで罪に問われていてもおかしくはないレベルです。僕もそんなに詳しくはないので弁護士を通して検討するのが一番だと思いますが。まぁ、一般の企業でしたら、私的横領は基本的には正当な解雇理由でもあると思いますし。まして、大手の九条グループです。確か、孝介さんはメディアにも出演していますよね。テレビや雑誌でもお見かけしたことがあります。もしこの事実が公に出れば、会社への不信にも繋がりますし、売上も減少、株価も下がるでしょうね」
彼は淡々と話しているが、脅しにしか聞こえてこない。
「何がお望みでしょうか?」
お義父さんは何が目的だと言いたそうだった。