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「侑、お疲れ。先日はありがとうな」
「いや、こちらこそ急ぎで楽器の調整と、ピアノの講師の方を紹介してもらって助かった。ありがとう」
侑と男性は笑顔を見せ合い、互いに右手を差し出し握手を交わしているが、ピアノ講師と思われる女性の方は、黒い瞳を丸くさせながら、侑を穴が開くほど見つめている。
女性は、おずおずとしながら侑へ話し掛けた。
「あの…………もしかして、トランペット奏者の響野侑先生…………ですか?」
「ああ、そうだが」
女性と侑の会話を横で聞いていた男性が、すかさず口を挟む。
「え? 奏、侑の事を知ってるのか!?」
「知ってるも何も! トランペット吹いた事のある人だったら、恐らく大概の人は知ってるんじゃない? 吹奏楽の専門誌『バンドファン』の巻末コーナーにあった『ワンポイントクリニック』で一年間執筆されてたし、私、高校時代に毎号見てて、すごく勉強になったし! っていうか、怜さんと響野先生が、小中学校の同級生っていうのがビックリなんだけど!」
怜と呼ばれた男性と、奏と呼ばれた女性の会話を聞いて、今度は瑠衣が濃茶の瞳を見開いた。
(え? この女性の方、高校時代にトランペット吹いてたって事!? ピアノ講師もやってるんでしょ!? 凄い……!)
瑠衣の驚きをよそに、侑は唇に笑みを含ませながら女性に答える。
「…………執筆記事を読んでくれていたんだな。ありがとう」
奏と侑のやり取り見ていた男性が、『とりあえず座ろうぜ』と、三人に声を掛けた。
四人はブレンドコーヒーを注文し、早速侑が二人に瑠衣を紹介した。
「彼女は、俺が立川音大で教えていた時の弟子、九條瑠衣だ」
「初めまして。立川音大で響野先生にお世話になった九條瑠衣です。よろしくお願いします」
瑠衣は腰を下ろしたまま、軽く会釈をすると、続けて侑が瑠衣に男性を紹介する。
「で、こいつが俺と九條の楽器を調整してくれた、小中学校の同級生、葉山 怜だ。この前、一緒に食事をした葉山圭の双子の弟だ」
「初めまして。葉山怜です」
怜が黒のスキニーパンツのポケットから名刺入れを取り出し、一枚抜き取ると、瑠衣の目の前に差し出した。