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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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たちまちに、横たわる新《あらた》の顔はひきつり、馬乗りになる橘をふるい落そうと、試みるが、あーー!と、また、声をあげた。


「もう、新殿が、動くから。うっかり、刃物が刺さってしまいましたわ。さて、お前様、これは、どうすればよろしいのやら?」


「おー、いかんいかん。女房殿よ、そのまま、ズブリと、行ってしまえば、崇高《むねたか》に、捕まってしまうぞ」


「あれ、捕まるのは、新殿でしょう?」


どうにもこうにもと、崇高は、頭を抱えた。


何を先程から、夫婦で小芝居を打っているのだろう。


「まずは、女房様よ、その刃物を、こちらへ」


崇高が、手を差し出した。


「あい、わかりました」


微笑む橘に、一同、嫌な予感が、走る。そして、その思い通りの事が起こった。


「あーーーー!!!」


新が、叫んだ。


喉元から、血が流れている。


「あらあら、刃物の先が当たってしまったのね、切れちゃってる」


「おー、だからの、一気に、ブスリと、いかねばならんのじゃよ。ゴタゴタ面倒な事になるのじゃ」


おいおい、口を割らせる拷問じゃあるまいし……と、崇高は、あきれつつ、橘から、奪うように刃物を受け取る。


危険は、無くなったと読んだのか、新は、体を越し、立ち上がろうとするが、橘の動きのほうが早かった。


「さあ!崇高様!縄で縛り上げてくださいまし!」


言う橘の両手は、新の首に回され、しっかり締め上げていた。


うげっ、と、吐息に近い叫びを、新はあげた。


「よし、ワシは足元を、縛る!」


髭モジャが、牛をムチ打つごとで腰にぶらせげている縄を手にした。


「うん、女房様よ、もう、構いませんぞ、ここからは、検非違使に、おまかせくだされ」


ふう、と、息をついた橘は、新の首から手を離し、そして、またがっている体から降りた。


「はあー、もう、なんてこと」


力尽きたと、へたりこむ橘は、すぐに、振り向くと、紗奈の姿を確かめる。


そして、動かぬ体で這い寄り、紗奈の元へ移動した。


「橘様ーー!!!」


大泣きの紗奈が、橘に、しがみついた。


「ええ、ええ、怖かったわねぇ、えらかったわよ、紗奈」


背後から、殴る蹴る、の、様な音と共に、新の悲鳴が、流れているが、橘は、気にすることもなく、紗奈の乱れた胸元を整えると、そっと背をなでてやる。


「紗奈、無事でよかった。あー、ごめんなさいね、こんなことになるなんて、甘く考えすぎていたわ」


「いや、橘様、私が、私が、反対を押しきって、ついて行けば……紗奈は、危ない目に合わなかった。それに、鍾馗殿や、タマだって……」


常春《つねはる》が、袖で、にじむ涙を拭いている。


「いえ、鍾馗は、もっと、鍛えなければ。そのうち、目が覚めるでしょう。本当に、役にたたないんだから。それよりも……」


「……橘様、タマが、タマが……」


「紗奈、ちゃんと、後で亡骸を葬むってやらねばね」


橘の言葉に、紗奈は、小さく頷いた。


「……犬、とはいえ、犠牲をだしてしまうなんて、屋敷は、手に負えない所に来ている。紗奈、もう十分だ。童子検非違使は、解散だ!」


常春が、強い口調で言い放った。


「そうじゃな、本物の検非違使が、来ているのじゃ、女童子も、常春殿も、そして、女房殿、もう、手を引け!」


髭モジャが、険しい顔をして、やって来た。


そして、あの、人形を常春へ、さしだした。


「こちらを」


「……髭モジャ殿?」


あっ!と、紗奈が、叫ぶ。


「兄様!ちっちが、ちっちが、助けてくれたのです!」


「そうか……」


常春は、妹の叫びに何かを悟ったようで、人形を受けとると、大切に懐へしまった。


「橘様、かまいませぬか?私が、預かっても……」


橘は、ええ、と、答えた。

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