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泉を後にすると、廊下の揺らめきはゆっくりと収まっていった。 足元はもう沈まない。ただ、靴底からはまだ小さな水音が響く。
「これで、探し物は見つかった?」
少年が振り返って尋ねる。
「……ええ。形は曖昧でも、心が覚えている」
言葉を口にすると、不思議な安堵が胸に広がった。
「流れは止められない。でも、向きを変えることはできる」
少女が私の横を歩きながら、静かに呟く。
その言葉は、泉で選んだ記憶よりも深く心に沈んだ。
玄関に着くと、ふたりは同時に笑った。
「またね」
「次のお客さまが来るまで、私たちはここにいるから」
扉をくぐると、外の景色が変わっていた。
赤い光の下に、細い川が流れている。
その水面は夕焼けを映し、赤と青が溶け合って紫がかっていた。
私はその色を最後に振り返り、静かに歩き出した。