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広間には、今日は紅茶ではなく温かなハーブティーの香りが漂っていた。 薄い琥珀色の液体が揺れるたび、ほのかな甘みと草の清涼な香りが立ちのぼる。
窓の外では、赤い光と青い流れが交わり、紫がかった空が広がっている。
その下を、静かな川がゆるやかに流れていた。
「きれいな色になったね」
光がカップを揺らしながら外を眺める。
「炎の赤だけでもよかったけど、水が混ざるとずっと柔らかい」
「そうね。あの人が選んだ記憶の色よ」
闇は椅子にもたれ、ゆっくりと湯気を吸い込んだ。
「全部を取り戻すことはできなかったけれど、その人にとって必要な欠片は見つけられた」
光は一口、カップを傾ける。
「流れは戻らないって言ったけど……」
「でも、向きを変えることはできる」
二人の声が重なり、同時に笑みがこぼれる。
ふと外を見ると、川面が紫の光を反射しながら、館の外へと遠く伸びていた。
どこへ続くのかは、二人にもわからない。けれど、それでいい。
「次は、どんな色を見せてくれる人が来るのかな」
「長く待つことになるかもしれないわ」
「……それもまた、楽しみ」
川のせせらぎが、ハーブティーの香りと混ざって、広間の空気を静かに満たしていった。