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第一章 まだ目覚めぬ月
番外編①青い空の下で
サフィアン、七歳。
ソルト家の屋敷に、今日も悲鳴が響き渡っていた。
「サフィアン坊っちゃま!?」
子供部屋へ足を踏み入れた家庭教師の顔が青ざめる。
そこには、本来なら部屋の中で机に向かっているはずの少年の姿はなかった。
開け放たれた窓。
そして、その下。
壁伝いに器用に降りていく、小さな影。
「サフィアン坊っちゃま!!」
「また逃げたの!?」
廊下から慌てた声が響く。
母、レイラ。
そして姉、アズール。
「サフィアン!!」
「もういい加減にしてよー!」
そんな声も、本人には届いていなかった。
「ごめんねー!」
全くそう思っていない声で、サフィアンは柱へ手を掛ける。
小さい身体を使い、慣れた動きで地面へ降りる。
着地。
そのまま庭へ駆け出した。
「早く!追って!」
「はい!」
「サフィアン坊っちゃまー!待ってくださーい!」
後ろから聞こえる護衛の声。
けれどサフィアンの足は止まらない。
広い庭を抜ける。
花壇の間を走る。
そして屋敷を囲む外壁へ手を掛けた。
「よいしょっと!」
小さな身体が軽々と壁を越える。
その先に広がっていたのは、いつもの森だった。
木々の間から差し込む陽光。
風に揺れる葉。
鳥の声。
屋敷の中とは違う空気。
サフィアンは大きく息を吸った。
「やっぱこっちの方がいいなぁ」
森は好きだった。
来るたびに違うものを見つけられる。
知らない花。
変わった形の石。
小さな動物の足跡。
ここには、決められた時間割もない。
誰かに「こうしろ」と言われることもない。
サフィアンは木の根元へ座り込んだ。
「勉強かぁ……」
思わずため息が漏れる。
文字を覚えること。
歴史を学ぶこと。
貴族として必要な知識。
大切なのは分かっている。
父がどれだけ努力して、この家を守っているかも知っている。
だからちゃんとしなければいけない。
ソルト家の長男として。
次代を担う者として。
幼いながらに分かっている。
分かっているけれど。
「ずっと座ってるの、やっぱ苦手だな……」
剣を振るうこと。
馬に乗ること。
身体を動かすこと。
自分の力で何かをすること。
そっちの方がずっと楽しかった。
それに同じ貴族の子供達も、少し苦手だった。
大人みたいな話し方。
家柄や身分を比べる会話。
誰かを見下すような言葉。
「なんでそんなこと言うんだろう」
小さく呟く。
父は違う。
身分が違っても、相手を一人の人間として見る。
そんな父の背中を見てきたから、余計に違和感があった。
サフィアンは仰向けに寝転ぶ。
視界いっぱいに広がる青空。
雲がゆっくり流れていく。
「……自由になりたいなぁ」
ぽつりと呟いた。
誰にも決められない。
好きな場所へ行って。
好きなものを見て。
好きな人と笑う。
そんな未来があるのなら。
見てみたい。
幼いサフィアンの世界は小さかった。
家。
街。
この森。
それが全てだった。
けれど青い瞳に映る空だけは、どこまでも広く、どこまでも遠かった。
まるでその先に、まだ知らない何かが待っているように。
#ダークファンタジー
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ばたっちゅ
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#生徒会長受け
コメント
1件
**みぅ🤍🥀** わあ…幼いサフィアン、ぎゅってしたくなる😢💔 屋敷の窮屈さから逃げて、一人で森にいるシーンがすごく印象的。青空を見上げて「自由になりたいな」って呟くところ、胸がきゅってなったよ。まだ小さくて、世界がすごく狭いのに、その瞳に映る空だけはどこまでも広いって描写が綺麗で、切なくて…。サフィアンの根っこの部分が詰まった番外編、すごく好きです。優しい気持ちになれたよ、ありがとう🌙