テラーノベル
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「おい瑠衣…………嘘だろ? 瑠衣……お前…………俺を置いて逝くのか!?」
感情を露わにし、顔をクシャクシャにさせて恋人に話し掛ける友人を初めて見た朝岡は、申し訳ない気持ちと胸が張り裂けそうになるのを耐えながら腕時計を見やる。
「瑠衣! 答えろ!! なぁ瑠衣…………答えてくれよ!!!!」
取り乱している侑の肩に朝岡がポンっと手を添え、涙ぐみそうな表情を映しながら静かに首を横に振る。
「…………十七時……八分……」
朝岡が時刻を呟き、携帯用のペンライトを点灯させて瑠衣の瞳孔を確認しようとした時だった。
無機質に音を発していた心電図モニターが不規則に音を刻み始めると、やがて緩やかに規則正しいリズムへと変化していく。
「響野! 九條さん……戻ってきたぞ!!」
朝岡は処置を再開し、看護師たちも必死に瑠衣の命を救おうとしている。
沈んだ空気に包まれていた病室が、瑠衣の息を吹き返させるために再度慌ただしい雰囲気へと変わった。
「瑠衣! 生きろ! 生きるんだ!!」
青白くなっている細い手を握りながら、侑も懸命に瑠衣へ話し掛ける。
心拍数が正常値に戻ってきた頃、侑が握っている彼女の指先が微かに動いた。
「瑠衣! 目を覚ますんだ……! 俺はここにいる……!!」
侑の呼び掛けに反応したのか、瑠衣の小さな手が彼の筋張った手を力なく握り返すと、睫毛が小刻みに震え、彼女はゆっくりと瞼を開いた。
「瑠衣……!!」
「……きょう…………の……せん……せ…………」
瑠衣が声にならないような声音で、侑の名前を小さく零す。
処置も終了し、朝岡が看護師たちに声を掛けると、一礼して病室から退出していき、残った朝岡は瑠衣の表情を見ながら丸椅子に腰掛け、躊躇いながらも訥々と彼女に向けて言葉を繋げた。
「……九條さん。手術は無事に終了しましたが……術後の急変で、あなたは命を落とし掛けました。本当に……申し訳ありません。ですが…………私が処置をしながらも、響野が必死にあなたに話し掛け、呼び戻してくれました。彼の想いと愛が…………最終的にあなたを救ったのだと思います」
朝岡の言葉を胸に留めながら、弱々しい声音で瑠衣はお礼を述べる。
「いえ、朝岡先生は……私のために尽力して下さいました。…………私を助けてくれて……本当に……ありがとうございます……」
朝岡は立ち上がり一礼すると、『良かったな』と言うかのように侑の肩にポンと手を置き、病室を後にした。
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