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「んあっ…… 司さ…… ん」
ギシッギシッギシッ——
「駄目だ…… 」
ベッドの軋む音と共に、二人の声が静かな部屋の中に広がる。それ以外に聴こえる音といえば、互いが繋がる部位からたつ、蜜が混じり合う音くらいだろうか。
「じ…… じか…… じっ、あああんっ」
口を大きく開け、言いたいと思っている言葉が途切れる。口から涎が伝い、はしたなく動物みたいに後ろから突かれている自分の手の甲へ落ちていった。
「…… 駄目だ。唯が、まだ足りない…… 」
腰の動きを止めず、司さんが言う。
「で、でも、じか…… んくっ」
「バイトの方が俺より大事なのか?それは許せないな」
拗ねたような声が聴こえ、最奥へと司さんが己の猛りを突き挿れてきた。
「っんぁぁぁっ——…… 」
「——急いだ方がいいぞ、時間がない」
ベッドサイドに立ち、司さんがズボンを穿く。起き上がる事も出来ず、ベッドに横たわる私に向かい、意地悪い声で彼が言い放った。
「…… 司さんが悪いんだ!司さんに車で送ってもらうからいいもんっ」
口をへの字にして拗ねていると、私の横にまだ上半身が裸状態の司さんが腰掛けてきた。拗ねたままでいる私の頬をプニッっと突付き、楽しげに笑う。
「これじゃ、本当に子供みたいだぞ?」
今まで長い間、俗に言う『夜の夫婦生活』が私達には無かった。だが、司さんの勘違いで一線を超えてからは、激し過ぎともとれるくらいの関係を、昼夜問わずに持つようになった。もっとも、あまりの長時間にも及ぶ行為の長さに、出来るだけ司さんの休みの前日、もしくは休みの日のみで、という条件付ではあるのだが。
「ほら、望み通り送ってやるから着替えて。店長に怒られるぞ?」
「…… 動けないくらいに抱いたのは、誰ですか?」
「俺だな」
「…… わかっているなら、いいのです」
のそっとした動きで上半身を起こし、床に散らばる下着に手を伸ばす。予定ではシャワーを浴びてから行っても余裕で間に合うはずだったのだが、とっても困った事に、どうやらその時間はなさそうだ。
「ねぇ、バイトと休みが重なると、特に激しい気がするのは気のせい?」
着替えながら司さんに訊く。すると彼は、少し驚いたといった感じの表情で私を見てきた。
「今更気が付いたのか?」
(やっぱりそうだったんだ…… )
「唯に悪い虫がつかないようにだよ。唯が酔っ払いのあしらいが上手いのは知ってるが、警戒すべきは他にもいるからな」
ため息をつきつつ上の服を羽織り、ボタンをとめながら司さんが言う。
「いないよ、そんな人。こんな子供みたいな奴に興味持ってくれたのなんて、司さんくらいだから」
「その思い込みが、危ないんだって言ってるんだよ…… 」
そう言い、彼は息を吐いた。
着替え終わり、さぁもう家を出ないとならない。寝室を出て、玄関へ向かった時、司さんがスマホで電話をかけだした。
(時間もないのに何してるんだろう?早く出ないと間に合わなくなるのに)
「もしもし、店長?日向です。お久しぶりです…… はい…… はい…… 」
(店長?お久しぶり?)
「今日、唯が熱を出たんで休ませます。ええ、急にすみません。ギリギリまで様子をみてしまって。いえ…… それじゃ。あ、はい。いえ…… じゃあ失礼します」
ピッ、ボタンを押して、司さんが通話を切った。
「——と、いう訳だ」
スマホをヒラヒラと揺らして見せながら、司さんが私に向ってとんでもない事を言う。
「か、勝手に風邪にしないで!!急に休んだら店長さん困るでしょ⁈」
「平気だよ。金曜じゃないんだ、お前の後輩が倍働くから問題ない」
「問題だらけだよ!」
「もう決まった事だから諦めるんだな」
司さんがそう言ったかと思うと、私をひょいっと抱き上げ、先程熱い行為に耽っていたばかりの寝室へ歩き出した。
「…… ちょっ…… まさか…… 」
「そのまさかだよ。休日もあと少しで終わるしな、晩御飯は外で食べよう。それまでは…… 」
ドサッと寝室のベッドの上へ私を放るように寝かせ、上から司さんが圧し掛かってくる。
「さっきの、続きだ—— 」
ずっと、夫婦生活を望んではいたけれども。
あり過ぎるのも、ちょっと困り物ですよね。
【番外編・① 完結】