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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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レストランはそこから車で五分ほどの所にあった。

海沿いに建つ真っ白な洋館は、ライトアップにより夜の闇に浮かび上がり一際美しかった。


海斗は駐車場に車を停めると、美月を連れて店へ入った。

すると礼儀正しい店のスタッフが、


「いらっしゃいませ、二名様でございますね」


と二人を出迎えてくれる。


店内の壁は海を感じさせる淡いブルーで、真っ白なテーブルクロスとのコントラストがとても美しい。

置かれている家具や調度品にも品があり、とても素敵なレストランだった。


二人は海が良く見える一番奥の席へ案内された。

席に向かう途中、何組かの客が既に食事を楽しんでいたが、メガネをかけた海斗には誰も気づいていないようだった。


美月は席に着くと、その窓から見える景色に目を奪われる。

既に日が暮れて真っ暗なので何も見えないと思っていたが、

海沿いにある洒落た街灯や向こう岸の街明かりによって、ほんのりと海が照らされていた。

海面に落ちる柔らかい光は、波に揺れてキラキラと輝きなんとも言えず美しい。

その光景は、まるで古い映画でも観ているようなセピア色の風景を醸し出していた。


美月が窓の外をうっとり眺めていると、海斗が聞いた。


「料理、注文しちゃっていいかな」

「お任せします」


この店の雰囲気だと、コース料理がメインだろう。


(きっと高そう)


美月は心の中で呟く。

その時スタッフが来たので、海斗は料理を注文してくれた。

スタッフは、海斗達が車で来ているのがわかっていたようでこう言った。


「お車の方には、ノンアルコールのカクテルもございますが」

「じゃあそれを」


そう言ってから美月にも聞いた。


「君はアルコールを飲む?」


美月が首を振ると、


「じゃあ、彼女にも同じものを」


と注文してくれた。

スタッフが立ち去ると海斗が言う。


「この店雰囲気がいいだろう? 前に一度来たことがあるんだ」


それを聞いた美月は、


(こんな素敵なレストランに誰と来たのだろう?)


と気になる。

しかし海斗は美月の心を見透かしたように言った。


「雑誌の取材で来たんだよ」


(なんだ……)


美月はそう思いながらホッとしていた。


少し緊張している美月をリラックスさせようと、海斗が話題を変えた。


中華街で何を食べたのか? とか、良い買い物は出来た? かなど、

美月が気軽に答えられる話題ばかりを持ち出してくる。


そんな会話を続けているうちに、美月は徐々にリラックスしてきた。

そして、亜矢子の夫が海斗の隠れファンだという事や、母親がパッチワーク教室をやっている事、

美月が所属しているSNSの天体サークルについての事や、最近近所に出来たケーキ店の事等、

気付くと色々な会話をしていた。


ちょうどその時カクテルが運ばれてきたので、二人は乾杯した。


そして今度は海斗の車についての話題になる。

海斗があの車に乗っている理由が趣味のバス釣りの為だと知った美月は驚く。

海斗がアウトドア系の趣味を持っているとは想像していなかったので、

自然が好きな美月はとても好感を持った。


その後、新鮮な海の幸と三浦半島の新鮮な野菜をふんだんに使った美味しい料理が次々と運ばれてきたので、二人はゆっくりと

食事を楽しんだ。


食事と会話が一段落した頃、今度はデザートが運ばれてきた。

そしてケーキに添えてある木苺を見た瞬間、美月は感嘆の声をあげた。


「うわ、木苺!」


大喜びしている美月の皿に、海斗は自分の木苺を載せたやる。

すると美月は満面の笑みで、


「ありがとう」


と言い、嬉しそうに木苺を頬張った。

美月の幸せそうな笑顔を見た海斗は、再び胸がギュッと締め付けられるような感覚を覚えた。


コーヒーを飲み終えた二人は、席を立ち出口へ向かった。

美月が自分の分を払おうとすると、


「大丈夫だから」


海斗はそう言って支払いを済ませた。

店を出ると美月は申し訳なさそうに


「ごちそうさま」


と礼を言う。


(いつもご馳走してもらってばかりだから、今度何かお返しをしよう)


その時美月はそう思った。


車に戻ると海斗が助手席のドアを開けてくれたので、美月は助手席に乗り込んだ。

ドアを閉めた海斗は運転席へ乗り込むとすぐにエンジンをかける。

それから、


「さて、帰りますか、お嬢様!」


と言って笑った。


帰りの高速は空いていた。

日曜の夜の渋滞は既に解消されているようだ。

帰りの車の中でも、二人は他愛もないお喋りで盛り上がった。


二人とも、今日一日で互いの距離がだいぶ縮まったように感じていた。


車が都内に入る頃、美月がうとうとし始める。

美月は必死に寝ないように頑張っていたが、とうとう目を閉じて眠ってしまう。

そんな美月をちらっと見た海斗は、穏やかに微笑んだままハンドルを握り続けた。


二人が住む街へ戻った頃、漸く美月が目覚めた。


「寝ちゃってた、ごめんなさい」

「大丈夫だよ。疲れていたんだね」


海斗が気にする様子もなく美月に優しく言った。


(私なんかよりも沢田さんの方が疲れているはずなのに……)


美月はそう思いながら寝てしまった自分を恨む。

窓から外を見ると、いつもの見慣れた街並みが夜の闇に紛れていく。


(シンデレラは魔法が解ける時間ね…)


美月はそう思いながら少しでもこの時間が続けばいいのにと思った。



車がアパートの前に停まると、美月は海斗に礼を言った。


「今日はありがとうございました」

「楽しかったね。またいつか行きましょう」


海斗の言葉に美月が頷く。


「じゃあおやすみ、またね!」


海斗は手を軽く上げると車をスタートさせた。

美月は手を振りながら車を見送った。

その後アパートの階段を上がっている時に、海斗の車に忘れ物をした事に気付く。


「あっ、桜貝!」


美月はハンカチに包んだ桜貝を、車のダッシュボードの上に置き忘れていた。

慌てて階段を下りた美月が海斗の家の方を見ると、

海斗の車がUターンしてこちらに戻って来るのが見えた。


海斗は美月の真横に車を停めると手を伸ばしてドアを開ける。

そしてこう言った。


「大切なものを忘れているよ!」


海斗は置き去りにされていた桜貝を指差した。

美月はホッとしながら助手席に上半身を乗り入れてその桜貝を取ろうとした。


「ごめんなさい、私うっかりしていて……」


言い終わらないうちに、海斗は運転席から身を乗り出すと美月の頭を引き寄せてその唇にそっとキスをした。

美月がびっくりしていると、


「俺も大切なものを忘れていたよ」


囁くように言った海斗は、もう一度美月に唇を重ねた。

二度目のキスはしばらくの間続いた。


車のフロントガラスから見える夜空には、いくつもの星がキラキラと輝いていた。

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