テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
16話 ふっくら、強くなりたい
朝
ふっくらは丸い体を揺らし
決意の顔で立っていた
短い脚がぷるぷる震え
腹が前にふよんと突き出ている
ふっくら
「……わたし、強くなる!!」
後ろで琶が静かに見ている
大きな体
長い首
重なった鱗
畳まれた翼が影を落とし
“がんばる気配が弱すぎる丸”を包む
ふっくらはまず走ることにした
ゆっくり
とてもゆっくり
丸い体が左右に揺れ
短い脚がぽすぽす音を立てる
琶
「……走っているのか?」
ふっくら
「走ってるよ!!
見た目は歩きかもしれないけど心は走ってる!!!」
ふっくらは三歩ほど進み
そのまま前にころんと転んだ
ふっくら
「いたっ……」
(丸いから衝撃は弱い)
琶は読者のほうを見る
「……いまのは練習だそうだ」
ふっくら
「読者に説明しなくていい!!
恥ずかしいからやめて!!!」
ふっくらは立ち上がり
また走り
また転ぶ
ゆっくり
そして確実に転ぶ
ふっくら
「ぐっ……くやしい……
でも……強くなる……!!」
琶は横で静かに首をかしげていた
「……何を目指している」
ふっくら
「強い自分!!」
琶
「丸いままでか?」
ふっくら
「丸いのは関係ないでしょ!!!」
ふっくらは腕立て伏せにも挑戦するが
腹が先に地面に着くため
一ミリも沈まない
ふっくら
「……あれ?
動けない……」
琶
「形状の問題だ」
(淡々)
ふっくら
「言い方ぁ!!!」
丸い体で努力を続けるふっくら
走る
転ぶ
立ち上がる
息が切れる
転ぶ
琶はずっと見ていたが
ほとんど何も言わなかった
ふっくら
「ぜぇ……ぜぇ……
ねぇ……琶……
何か励ましとか……アドバイスとか……
ないの……?」
琶はゆっくりと近づき
ふっくらの頭をつん、と軽くつついた
「……変わらん」
ふっくら
「ひどっ!!!
なんでそんなストレートなの!!
読者の前だよ!?!」
琶
「努力の方向性が間違っている」
ふっくら
「なんでちょっと優しい言い方に変えたの!?
余計もどかしいよ!!!」
ふっくらは最後に深呼吸し
座り込んだ
丸い体がふよんと沈む
ふっくら
「……疲れた……
強くなるってむずかしい……」
琶
「……疲れただけだろう」
ふっくら
「そうだよ!!
疲れただけだよ!!
なにも変わってないよ!!」
琶は少しだけ笑ったように見えた
「変わらなくていい。
おまえは丸いだけで十分だ」
ふっくら
「それ、ほめてる……?」
琶
「読者が判断する」
ふっくら
「読者に丸投げしないで!!!」
夕方
ふっくらは丸いままで
何も強くならないまま
今日も日が暮れていく
ただ
ふっくらの後ろで
琶の影が少しだけ長く伸び
視線の先だけが
ほんのり重く揺れていた
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!