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1,983
#宵待ち亭
#夢
お浜さん、水!と、虎は叫び、地面へ倒れこんだ。
大の字に伸びた虎は、珠子の奴!と、ぶつぶつ言っている。
「おい、虎、どうした?!」
「龍の兄貴ーー!珠子、なんとかなんねぇっすかぁ!!」
虎が言うには、あれから、ハリソンが珠子に追い付き、虎の人力車に乗せた。
あれやこれやと、機嫌を取るが、その間、虎は人力車を引き、これでもかと、同じ辺りをいったり来たり。
結局、ハリソンの所で、秘書として働くことで収まった。
「よくわからねぇっすけど、横浜なら、女学校の友達に出会わないから、ハリソンさんとこへ、行くんだって。あー!着替えと、女学校の教本持ってこいって!もう!腹減って動けねぇっすよー!!」
虎はそこまで言うと、力尽きたとばかり、大きく息を吐いた。
「なんだよ!それっ!」
龍がいきり立つ。
「ちょいと!どうゆうことだい!!人の世話になっといて!後ろ足で砂かけやがるたぁ、やっぱり、勝代の娘だよ!!」
お浜も、容赦なく珠子を罵る。
「も、申し訳ありません!!!珠子の奴がっ!!」
圭助が慌てて、地面に土下座すると、皆に頭を下げまくる。
「い、いや、そこまで、なさらないでください!義父《おとう》さん!」
金原が慌てて、圭助へ頭を上げる様に言うが、圭助は、聞く耳を持たない状態だった。
「……社長、いっときのお遊びにしては、ハリソンの所ですよ……」
八代が意味深に言う。
「そうだな、ハリソンの元に留まるのは……」
渋い顔をする八代と、口ごもる金原の姿を見て、櫻子は、酒井医院で出会ったハリソンの姿を思い出していた。
横浜で、画商を行っていると言っているが、それでは、何故、斬り付けられたりしたのだろう。そして、八代が一番に反応した。
つまり、珠子も、何らかの巻き添えに合う可能性があると、金原と八代は心配しているのだろう。
確かに、ハリソンは、横浜で商っているようだから、余程の事がないかぎり、珠子は、女学校の友達に出会うことはない。
珠子のことだ、恐らく、縁組みが決まったと、そして、それとなく、子爵家に嫁ぐと、傍聴していたのだろう。
そもそも、女学校とは、そうゆう所で、師範学校へ進学し、教師になる訳でも無いのなら、卒業前に嫁に行くと退学するのが当たり前なのだ。
下手に卒業してしまうと、それこそ、行き遅れと陰口を叩かれても仕方ない。
珠子は、その嫁入りが、破談になった。勝代のこと。すでに、退学届けを出していたのかもしれない。
だから、しょうがないわと、ぶつぶつ言いながら、珠子は、女学校へ行くわけでもなく、成田屋へお浜と同行していたのかもしれない。
屋敷にいれば、皆にあれこれ説教される。そして、外に出れば、珠子の結婚話を知っている誰かと出会う。
珠子の立場はなかったのだろうと、櫻子は、気が付いた。
横浜なら……、珠子も行く気になっているのなら……、皆、珠子に振り回されることもない訳で……。
だが、やはり、金原と八代の口振りが気になった。
「……まあ、暫く、少し気分が収まるまでなら、珠子さんも気晴らしになるでしょうし……」
金原は、圭助の手前、同意しているのだろう。よそよそしさが垣間見れた。
「虎、で、女学校の教本というのは?珠子さん、あちらで、まさか、女学校へ通うのか?」
「違うっす、社長!なんか、わからないっすけど、ハリソンさんが、異国の言葉を覚えろとか言い出して、で、女学校の教本持ってこいって、どうゆうことなんっすか?!」
なんとか、かんとか体を起こして、虎が答えた。
その事情を聞いたとたん、金原の眉が、つり上がった。
「さ、櫻子!!女学校だ!!お前も女学校へ、行け!!珠子にだけ、良い思いさせてたまるか!ハリソンも、余計なこと言いやがって!!」
お前の方が、断然賢い、珠子だけ、外国語を学ばしてなるものか、そもそも、初めから、女学校へ、通わせてやればよかった、と、金原は、一気に、櫻子へまくし立てた。
恐らく、外国人商人との付き合いもあるということで、ハリソンは、珠子に、英語の一つでも習得させるつもりなのだろう。
それで、珠子が根をあげるのを待っているのかもしれない。が、金原にとっては、妙に腹に据えかねる事だった。
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