テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
最初に現れたのは、ふたつの影だった。
白く霞む夜の光の中、それらはゆっくりと形を持ち、やがて小さな子供の姿へと結ばれる。
少年と少女――まるで鏡写しのように似た顔立ち。
少年は雪のような髪に、淡く金糸を織り込んだ上着を纏い、少女は夜の海を思わせる黒髪を艶やかに垂らし、群青のドレスに銀のレースをあしらっていた。
ふたりは目を合わせ、同じ瞬間に笑う。
その笑みは可憐で、どこか底知れない。
「ここは……お家?」
少年が問いかける。声はまだ頼りなく、それでいてやけに澄んでいた。
「たぶん。だって、扉も窓もあるもの」
少女は廊下の奥を指差す。そこには確かに扉が並んでいたが、いくつかは輪郭が曖昧で、まるで描きかけの絵のように揺らめいていた。
外を覗くと、空も地もない。
ただ薄明と薄暮が溶け合い、星とも霧ともつかぬ光が漂っているだけだった。
「なんだか……誰かが来る気がする」
少年が無邪気に笑う。
「うん。きっともうすぐ」
少女も笑い、ふたりは手を繋いだ。
広間の空気がわずかに震えた。
シャンデリアがふっと灯り、遠くの扉の向こうで何かが動く気配がした。
――コン、コン。
重い扉を叩く音が、館に響く。
ふたりは目を見開き、同時に小さく息を呑む。
扉は、今まさに開こうとしていた。