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――ここだ。
噂に聞いた「館」の前に立った瞬間、熱の流れが少しだけ変わった気がした。
握った拳の奥で、炎が脈打っている。もっと燃えろと、もっと喰らえと、俺を急き立てる。
扉を二度叩く。
すぐに内側で小さな気配が動き、ゆっくりと扉が開いた。
……子供?
雪のような髪の少年と、夜を纏ったような黒髪の少女。
どちらも八つにも満たないように見える。けれど、その瞳に映る光と影が、妙に心をざわつかせた。
「……ここが、案内してくれる場所か」
俺は言葉を吐き出すように問う。
「うん、そうみたいだよ」
少年は無邪気に笑った。まるで焚き火の前で遊ぶ子供のような笑顔。
「あなた、あったかい匂いがするね」
匂いだと? これは匂いなんかじゃない。
「炎だ。俺は、もっと燃える力がほしい。だから来た」
「ふふ……燃やして、どうするの?」
少女が静かに問う。声は優しいのに、足元から影が這い寄ってくるような感覚がした。
「燃やす以外に、俺には何もできない」
そう答えると、指先から小さな火の粉が零れ落ちた。
ふたりは顔を見合わせ、同時に笑った。
その笑いは柔らかいが、どこか底が見えない。
「面白い人だね」
「ええ、退屈しなさそう」
暖炉の奥で、まだ灯っていないはずの火が、かすかに揺らめいた――。