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24話 琶が本気を出しそうになる
昼
ふっくらは丸い体を揺らしながら
のんきに草をむしっていた
短い脚でちょんちょん立ち
腹がふよんと地面に近い
ふっくら
「今日は平和だね〜……」
琶がすぐ後ろに立っている
大きな体
長い首
重なった鱗
畳まれた翼が風を止め
影がふっくらの上に落ちる
ふっくら
「ねぇ琶〜、なんか面白いことないの?」
琶がふっと目を細める
その瞬間――空気がわずかに震えた
低い音もないのに
大地が静かに凹んだ気がした
ふっくら
「なにその“始まる感”!!
やめて!!
読者が身構えるやつ!!!」
琶
「……何も起きん」
ふっくら
「起こりそうだったよ!?
絶対今なにか出しかけたよね!?!」
ふっくらが叫ぶと
また空気が変わる
光がほんの少しだけ濁り
鳥が一斉に飛び立つ
ふっくら
「ほらぁぁぁ!!
鳥逃げてるじゃん!!
絶対なんかしたでしょ!!」
琶
「偶然だ」
ふっくら
「偶然のわけあるかーー!!」
そのツッコミに反応したかのように
三度目の“気配”が走る
風が止まり
影が一瞬、形を変えた
琶の鱗がかすかに鳴る
ふっくら
「やめて!!
鱗鳴らすのやめて!!
本気の前兆っぽくするのやめて!!!」
琶
「……何も起きない」
(言いながら目だけが鋭い)
ふっくらは丸い体でじりじり下がる
「ぜったい起きたよね!?
いま起きたよね!?
気づいてないのわたしだけ!?!?」
ふっくらがさらに騒ぐと
四度目の空気の変化が起きた
遠くの空が一瞬だけ暗くなった
ほんの一瞬
本当に一瞬
ふっくら
「暗くなったよ!!
今絶対暗くなったよ!!
読者も見たよね!? 見たよね!?!」
琶
「見ていない」
ふっくら
「なんで断言!!
なんで読者の代弁までしてるの!!?」
そして五度目
琶が何も言わずに
指を軽く鳴らすように爪を合わせた
その瞬間
地面に細いヒビが走りかけ――
走らずに消えた
ふっくら
「ひび!!!!
ひび!!!!
ひびが今!!
地面のひびが今!!!!」
琶
「ひびは……なかった」
ふっくら
「あったよ!!
絶対あったよ!!
読者ーー!!
証言してーー!!!」
琶はふっくらの丸い頭をつつく
「本気を出したいのか?」
ふっくら
「出す気だったの!?!?
いまの全部出しかけだったの!?!!?」
琶は静かに首を振る
「……出しかけただけだ」
ふっくら
「それを本気というんだよ!!!
読者も困惑するからやめて!!!」
琶は少しだけ笑ったように見せ
影をゆるく戻す
「安心しろ。
何も起きない」
ふっくら
「五回も前兆出して言う言葉じゃないよ!!
わたしもう今日寝る!!!
精神がもたない!!!」
そのままふっくらは
丸い体を地面に落とし、ふよんと横になった
琶は静かに空を見上げる
その目だけが
一瞬だけ深い闇を映した
なにかが本当に起きる日は
まだ先らしい
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