テラーノベル
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カチンと何かが外れる音がする。
彼が、私に素っ気なかったのは、何処か距離を置きつつも、寄り添ってくれていたのは理由があったんだと。これまでの、彼の行動が全て繋がった。そりゃ、彼だって、少し動揺するだろう。だって、私は死んだものだと思っていたから。
「ある、べど?」
「んで、あってんのかよ。お前は、その、俺の知っているエトワールなのか」
「どう思う?」
「どう思ってるって……」
「…………そう、あってる」
私がそう言うと、アルベドは、力が抜けたように、ソファに沈み込んだ。ガラにもなく、彼は気を張っていたようで、それから解放されたような感じだった。よかった、と小さい声で聞えてきたときは、私も涙が出てきそうになった。
アルベドは、顔を覆っていて、私にその表情を見せようとしなかった。
「アルベド」
「んだよ」
「いつから?」
「ああ?」
「いつから、ってか……私のこと何で覚えているの?」
彼の頭上の好感度は130%とこう数値を示している。なんで、100%を越えられるのか、リースの時から理解できていなかったけれど、それは置いておいて、数値はきっと前の世界のものが受け継がれているのだと思った。
アルベドは、ちらりと、指の隙間から私を見る。
それにしても、不思議というか、疑問で頭が覆い尽くされているから、説明して欲しかった。誰も私を覚えていないのに何で、アルベドだけ覚えているのか。その差は何なのか。私と出会ったから思い出したというのなら、グランツにだってそれが適用されるだろう。適用されていないからこそ、疑問が残るのだ。彼の口から真実を聞かないと納得いかなかった。
でも、嬉しいって単純に思っていて、まずは、覚えていてくれてありがとうって言いたかった。
「……」
「ありがとう。私のこと探してくれていたってことででしょ」
「そうなるな」
「なんで疑問系?」
「だってよ……あー言いたくねえ」
と、言い淀むアルベド。ここには私と、彼しかいないのだから言えば良いのに、何を迷うことがあるのだろうか。
私が、前の世界のエトワールだと言ったことで、彼の鍵が外れて、好感度が見えるようになった。他のキャラもそうなのだろうか、など色々考えながら、もう一度アルベドを見る。アルベドはばつが悪そうに、頭をかいていた。
「それで、いつから、ステラが私だって分かったわけ?」
話題を少し変えれば、話してくれるだろうと思って私が話題を投げれば、アルベドは少しこっちを見ただけで、また目線を逸らしてしまう。覚えていてくれて、こうして、ここに招いてくれたのに、その態度はよく分からなかった。
「あそこは、私達が初めて出会った場所でしょ?」
「覚えてたのかよ」
「当たり前でしょ。アンタみたいな、強烈な出会いしたら、忘れられるわけないもん」
「まあ、最悪の出会いだったな。俺の印象が最悪だった」
と、アルベドは自傷気味にいう。自分でも分かっているんだとツッコミを入れたくなったが、それもグッと堪える。まあ、あそこに行ったからと言って私に会えるわけじゃなかっただろうし、アルベドも、ストーリー通りにあそこにきた、ということだろうか。どういう仕組みなのか、私には理解しかねるが、あそこにもし、アルベドがいなかったら私は彼に出会う事は出来なかっただろう。今ですら、他の攻略キャラに全く会えていないし、接点もないのだから。アルベドは、記憶を保持してまき戻った世界に存在している。そして、まき戻ったということは、私じゃない彼女のが、エトワール・ヴィアラッテアの姿になったと言うことで。そこに行っても、私に会えるわけがないのに。それを頭の良い彼なら理解していると思っていた。
(何でよ……)
彼の気持ちが知りたい。けれど、アルベドは答えてくれない。
「俺だって、はじめは受け入れられなかったに決まってんだろ。お前の身体が乗っ取られて、きっとあそこに行ってもいるのは、お前じゃないんだろうなって思った。けどよ、実際いってみたら、よく分からねえ、知らねえ奴がいたし」
「それが、私だと」
「そーだよ。だから、すっげえ戸惑った。お前じゃない、お前と対峙したくもなかったけどな、少し期待してたのかも知れねえ。あそこに行ったら、またお前に会えるんじゃないかって」
「……そう」
「反応薄いな。せっかく話してやってんのに」
それが、そもそも分からないのだと、言い返したかった。あそこに行ったら、私に会える、そんな期待。何故、アルベドが記憶を保持しているか、そこから話してくれないと、話が繋がらないのだ。
「アンタまだ、何か、隠してるでしょ」
「隠しごとの、一つや二つぐらいあってもいいだろうがよ。全部話せって拷問か?」
「だって、おかしいもん。私だって、凄く戸惑っているし、混乱してるし。アンタが、覚えていてくれたのは嬉しいけれど、なんで覚えていてくれたのかって……だって、グランツは何も覚えていなかったから」
「まあ、そうだろうな」
「だから、それ!それを知りたいのに!」
私が地団駄を踏めば、アルベドはくくくと喉を鳴らして笑う。けれど、話してくれる様子はなくて、足を組み替える。私が死んで、どんな風に世界が戻ったのかはしらない。その間に何があったのか、私が死んだ後、リースはどうだったのかとか。死後のことはその世界に生きていた人しか分からない。知ったところで、どうなるのかって話だし、そもそも、私は、アルベドの言葉を拒絶して。
(ここまで、忘れてたけど……アルベド、よく私のこと探していてくれたのよね……)
アルベドに、生前酷い言葉をかけた。そんな相手のこと、普通なら助けたくも、探したくもないはずだ。忘れてくれた方がいいに決まっている。でも、彼は私を探してくれていた。
そう思ったら、もう一度、いや、謝らないといけない気がして、私は深く頭を下げた。アルベドは驚いて立ち上がる。
「いきなりどうしたんだよ」
「ごめん」
「あ?」
「ごめん……私、アンタに酷い言葉かけた。アンタが助けてくれるって言った言葉、拒絶した。だから、ごめん」
「……」
アルベドは何も言い返さなかった。掘り返されたくなかったかも知れない。でも、私は謝らなければと思った。そう思って、あそこにきた。アルベドともう一度出会うために。
「顔あげろ」
「ヤダ」
「なんでだよ」
「アンタに許して貰えるまで、あげない」
「別に怒ってねえだろうがよ」
と、アルベドはぶっきらぼうに返す。顔を見たいけれど、きっと逸らされているんだろうなって何となく雰囲気で分かった。彼のことを理解しているのは自分だって自負していたけれど、全然そんなことないと思う。何も知らない。好感度が見えたところで、その人の心の中まで見通せるわけがないから。
「怒ってねえし。お前が、俺の為を思って拒否したのも知ってる。あんときは、俺もカッとなっちまったからな。お前が処刑されるって、焦ってたから」
「でも」
「だーかーら、怒ってねえっつってんだろうがよ。じゃなきゃ、お前を探したりしねえ。忘れてただろ」
「……」
「顔あげろ。謝ってもらうために、お前をここに連れてきたわけじゃねえ」
アルベドは、そう言って私の前に手を差し伸べた。黒い手袋をした手はかすかに震えているようにも思える。彼は何に怯えているのだろうか。
私からの、拒絶……?
考えるだけ馬鹿馬鹿しかった。謝らなくていい、その言葉に私は甘えてしまった。彼の手を取って顔を上げる。すると、そこには、微笑んで、でも少し泣きそうなアルベドの顔があった。
「アルベド?」
「また会えて良かった。エトワール」
ただその一言、アルベドはいうと私を抱きしめた。
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