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いと
#和風ファンタジー
るるくらげ
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第2章 第13話
「起死回生」
大爆発。 直後、砂埃と爆風が視界を全部奪った。
「バロロぉッ……ジャック……!!」
叫ぼうとしたのに、声が上手く出ない。喉が焼けたみたいにひりつく。
数十秒――永遠みたいな沈黙のあと、ようやく視界が戻ってきた。
そこで目に入ったのは、背中一面を酷い火傷で覆われた片腕のバロロと――その腕の内側に、守られる形で身を縮めていたジャックだった。
バロロは、誰がどう見ても瀕死だった。骨がむき出しになっている部分すらある。 痛々しい。――そして、尊い。
守り抜いたジャックは、ほとんど無傷。 その事実だけが、胸の奥を殴ってくる。
……とはいえ、もうバロロは動けない。 アクラも立っているだけで精一杯だ。 予想通りツヴァイは、とっくに使い物にならない。
動けるのは――ジャックだけ。
「バロロ……くん……」
バロロは、まだ息をしている。 だが助かるかどうかは、分からない。
「ぜったいに………」
まだ魔族はそこにいる。 だから。
「許さないんだから……ッ!!!!」
怒りで震える手。 普段の、おっとりした天然顔は消えていた。今のジャックは鬼の形相で、魔族を睨み潰している。
――だが、魔族もまた。 さっきと同じように、再生を続けていた。
「くっそ……これが魔族のフツウなのかよ……!」
アクラの本音が漏れる。
「ガハハハッ……言った……だろォ! 皆殺しにしてやるって……な!」
「……ッ! いい加減に……してよぉ!!」
ジャックが弦を限界まで引き、エレクトロアークを連発する。 雷をまとった矢が次々と突き刺さり、炸裂する。
その間に、体だけの再生を終えた魔族は――首のないまま動き、落ちた自分の頭を拾い上げた。 そして、頭を守るように、体で抱え込むように構える。
(……頭を守ってる?)
反射で、アクラの声が飛んだ。
「あいつ……頭だ! ジャック! あれが弱点なんだ!」
「わかってる!」
さっきまでは効きが薄かった矢も、魔族が削れてきているのか――当たった場所の動きが、一瞬だけ鈍るように見えた。
だが次の瞬間。
魔族が、いきなり頭を遥か遠くへ投げ飛ばした。 ――頭を離す。守るのをやめる。代わりに、体だけがジャックへ向けて一直線に迫る。
「(どっちを――)」
ジャックは、咄嗟に頭を狙った。 一か八か。
――でも、その前に。
魔族の体が、ジャックの腹部を蹴り飛ばした。
「――っ!!」
ジャックの体が宙を舞う。 その蹴りの瞬間、魔族の足首から下が消えていた。 ……たぶん、爆発の材料にして勢いを作ったんだ。
遠くまで飛ばされたジャックが、地面に転がる。 口から吐血。内臓をやられたのが、一目で分かった。
「くっ……っそぉぉ……!!」
非力。無力。圧倒的絶望感。 死ぬのか。自分は、ここで。
首のない魔族の体が、こっちへ歩いてくる。 殺しに来ている。足音が、近づく。
まだ――死にたくない。
目の前。 一か八か。
アクラは剣を握りしめ、全体重をかけて胸へ突き刺した。
分かってる。頭を狙わなきゃダメだってことくらい。 でもその頭が、あんなに遠くに――
……頭?
「お、おい……なんでお前が、ここに……」
遠くへ投げ飛ばされたはずの頭。 そこへ、氷でできた長い剣が容赦なく突き立てられていた。
銀髪の少年が、淡々と呟く。
「敵は……こいつだけか」
霧雪ゼグレ――。
「アガァッッ……!!」
苦しみに満ちた唸り声。 だが次の瞬間、ゼグレの氷魔術が一気に広がり、魔族そのものを凍らせる。
頭が、粉々に砕け散った。
アクラの目の前にいた体も、最後は自爆するのかと思ったが――ただ突っ立っているだけ。 そして遅れて、ゼグレの氷に叩き割られた。
「ゼグレ……!!」
アクラの心境は複雑だった。 彼が来なければ、自分は確実に死んでいた。誓刃校にも影響が出ていただろう。
――だが、こいつは。 詩丸を殺した野郎だ。
「動けるか」
「あぁ……?」
腹が立つ。なぜこんなやつに。 なのに口が勝手に聞いてしまう。
「なんで……助けたんだよ」
ゼグレは目を逸らさず、淡々と答えた。
「決まってる。お前が死んだら、俺も死ぬ。 ……それだけは、させない」
「なんだよ……それ……」
あっけなさすぎる返事に、気が一気に抜ける。 アクラは限界を越えて、その場で気絶した。
それから何時間経ったのか。
「……ーい」 「……てください。これだから……」
声が、途切れ途切れに聞こえる。
「おーい。起きないねぇ。ゼグレの声でも聞かせてやろうか」
「それだけは名案ですね。男のくせに」
「ゼグレ……ッ!?」
アクラは勢いよく飛び起きた。
「ほら、起きた起きた」
「ったく……どんな仲なんだか……」
目の前には、黒刃の二人。
「結構頑張ったらしいねぇ。褒めてあげる」
黒刃クレイが、皮肉みたいな嫌な笑みを向ける。
「誰もあなたになんか褒められたくないですー。男とはいえ、アクラさんが可哀想です」
黒刃エペ。いつもの毒舌だ。
「な、なんでお前らがここに……! ……はっ、そういえば魔族のやろーは!? ゼグレはどうなった!」
もう朝だった。 場所は、昨日魔族と戦ったアズラル村近くの街道。
「魔族はもう討伐したわ。ゼグレさんがトドメを刺す形になったみたいね」
奥から現れたのは闇音刹那だった。いつもより動きやすい服装で、上着を脱いだのだろう。
「それじゃあ……一旦危険は去ったのか……」
周囲を見れば、氷漬けになって砕けた肉片が転がっている。
刹那が説明する。
「帰り道、別の街に寄った時、アズラル村の住民がそこまで避難してきたの。 “魔族に襲撃された”ってね」
「そうそう。そういうワケ」
クレイが口元だけニヤつかせる。
「……そういえば! バロロは!? ジャックは……大丈夫なのか!?」
「それが……」
一瞬の間。
「無事でしたよ! 何とか一命を取り留めました」
エペが、安心しきった顔で言った。
「よ……よかったぁぁ……」
張り詰めていた糸が、やっと切れた気がした。
……でも、すぐ疑問が湧く。
「……ん。待てよ。えっ。誰が治療したんだ? ……ところでクレイ。さっきから何やってんだ……?」
「なにって……見たらわかるでしょ。キミの応急処置に決まってるじゃない」
「お、お前そんなのできんのかよ……」
刹那がさらっと追い打ちする。
「あら、アクラ君。バロロ君もジャックさんも治療したのはクレイ君よ?」
「……あへぇ?」
間抜けな声が出た。
「こう見えて、お医者様だからねぇ」
こんな怪しくて嫌味なヤツが……!?
「う、うそつけ!! 絶対あれだ……テキトーにやってるだけ――」
その時。
「おう!! アクラ! 目が覚めたか!」
「アクラくん! 大丈夫? 怪我はもう平気?」
バロロとジャックが、こっちへ歩いてきた。
「……はぁ??」
嘘だろ。さっきまでかなり重症だった二人が。 ピンピン……とまでは言えないが、ちゃんと歩けている。 歩き方が少し不自由で、病み上がりの空気はある。でも生きてる。
クレイが、さらっと言った。
「ボクの治癒魔術」
「お前そんなすげえもん持ってたのかよ……」
信じられない。けど現実が証明している。
……だけど。
「じゃあなんでおれには包帯と薬草……? やってもらって悪いけど……あいつらみたいに治癒魔術は……?」
クレイは笑った。
「あは。別にいいでしょ。教育だよ、教育。 次から無理しすぎんな。死ぬよ、ってこと」
「な、なんだよそれ……」
一瞬だけ、クレイの表情が曇って見えた。 気のせいかもしれない。
「でも、生きてて本当によかった……。最後、すっげぇかっこよかったぜ、バロロ!」
「照れるな! まぁでも片腕は失ったけどな……」
「そうか……でもおれはお前のこと、誇りに思うよ」
アクラが励ますように言うと、バロロは照れくさそうに笑った。
「へへ、ありがとよ、ダチ! これが終わったら殴り合いの友情確かめ合いごっこしようぜ!」
「いきなり物騒だなおい!」
笑いながら、バロロはB班・C班の馬車の方へ歩いていく。 そこには光月やみずきもいて、アクラと目が合うと嬉しそうに手を振った。
「……あの筋肉バカも、まぁ強いのに今回は散々みたいだったねぇ。 ま、ボクの方が強いけど」
クレイが言うと、
「あ〜れぇ〜? 初対面で戦って腕の骨折られたのはどこの誰でしたっけぇ?」
エペが煽り散らかす。
「うるっさいなぁ」
それでもクレイは、意外に嬉しそうだった。 ……一体どんな関係なんだ、この二人。
刹那が、落ち着いた声で区切る。
「とにかく、無事でよかったわ。アクラ君。 治療が終わったら……ゼグレさんが呼んでいたわ」
「ゼグレ……」
どうにか死線をくぐり抜けた。 みんな、すごい。
でもおれは――もっと頑張らなきゃ。
……いつかゼグレ。 お前に聞いてやるからな。あの夜のこと。