6月30日
「もうお腹も限界まで大きくなったようなものですね。」
「ああ。もう寝返りがうてないのがキツすぎるくらいだ。」
「入院は,,,できれば明後日には。」
「分かった。」
「必要なもののリストを作ってあります。エドワードさんに渡しておきますね」
「助かるよ。ありがとう」
「無事にお生まれになることを祈っております。」
「,,,ありがとう」
マタニティ服もワンピースしか着れないぐらい、お腹は大きくなっていた。それに、7月の4日が近づいているもので体のだるさは強かった。そんな状態でいると階段を降りるにも下を向けないのが怖いし歩くだけで息切れがすごい。それでも子のためと思って必死に歩く。
「アーサー。手」
アルフレッドに伝えてからというものの、気分が軽くなったような気もする。マシューにはずっと申し訳ないと思っている。俺の苦しんでいる姿を1番近くで見せて、あの時マシューも言ってた通り、手のひら返しみたいなもんだからな。
お腹をなでていて思ったことがある。
もし、国であったらどうしようと。
もう一度失うことになるのだろうかと。
それでも、どちらの運命になっても俺たちはそれに従うだけだ。しかし、そのときに忘れてはいけないのが子供のことだ。己のことばかりを考えて子供を不幸にしたくない。そして、
俺たちよりも先に目の前で死んで欲しくない。
その願いだけを胸に抱き、明後日を待つ。
「おはようございますアーサー様」
「,,,,,,あぁおはよう」
「どうされましたか?ご気分が優れないでしょうか。」
「,,,腰が、痛くて,,,」
不思議と悪阻が治まってきた気がするのだが、逆に腰が痛くなった。
「さすりますのであちらの窓側を向くように方向を変えれますか?」
「あぁ、」
さすってもらえると少し和らぐがそれでも痛い。
「,,,うーん、病院に連絡してみますか?入院の準備はできておりますので、そのセットも持って行きましょう」
「あー破水してますね」
「,,,え?」
「おーい!部屋準備してくれ!あと車椅子も持ってきてくれないか!」
「え,,,え?ちょ、エドワード、」
「わ、分かりません,,,」
どうやら腰が痛かったというのは前兆だったらしい。破水はいつの間にかしていたそうだ。俺は気づかなかった。悪阻が治まったのもその1つ。
「お腹、失礼しますね。」
1人、装置を付けられ無駄に広い部屋で待機させられる。ボーッとしているとキューっとするような痛みが押し寄せてくる。まだ耐えられるぐらいだが、これよりももっと凄いものが来るのだろうかと冷や汗が出てくる。そんな気持ちでいるとエドワードが入ってきた。
ベッド脇の小さな椅子に座ると、
「,,,その、秘書さんに連絡をしたんです。返ってきた返事がですね、アルフレッドさん、お仕事が急に流れ出してきて,,,早く終わったとしても来れるのは明後日らしいんです,,,」
「,,,え?,,,あぁそっか、あいつ誕生日なのか」
「トラブルがあったようで,,,」
「そんじゃ、あいつが来る前に産んで写真送るか。」
「その意気で、頑張りましょうか。」
「ああ。そうだな」
突然、果てしない痛みが全身を襲った。
「イデデデデ!!」
「あ、アーサー様!?」
「い、イダイイダイ,,,」
思わず涙が出そうになると看護師が現れる。
下を覗いていると、
「,,,2cmですね。どうしても我慢が出来なくなればナースコールで呼んでください」
「えぇ!?なにか、楽にできるようなものとかないんですか!?」
「あぁ。でしたらこちらのボールをお使いください。命を産むということはそういうことなのです。」
「え、えぇ、、」
エドワードは広い個室の中、痛みに悶え苦しんでいる主人と2人きりでしのぐことになった。
アメリカ
「,,,なぁぁんでさ!?みんなこんなギリギリに招待状の返事を送ったりするのかなぁ!!」
「Mr.ジョーンズ!それだけではないんです!こっちにも急な仕事が溜まってるんですから!急ぎますよ!」
「,,,ねぇ、せめて今日だけでも抜けたり,,,」
「ダメです!この仕事、明後日までが期限なんですよ!?記念日のことならその日頑張ればいけます!!」
「ああぁ!もう!!」
ネクタイをしっかり締めることも忘れ、アルフレッドは仕事にかかり始める。ふとカレンダーを見てあと4日なのかと思って目を逸らしたが2度見してカレンダーを凝視する。忘れていた。アーサーは【記念日】が近づくと体調が悪くなり体を起こすこともできないことを。
「ゲホッゲホ!!,,,あー、いでぇ,,,」
「ボールを押してますんで口は覆えますか?」
「がんばる,,,」
病室内は中々カオスであった。10分間隔で喚いてはその合間合間に体がすごく重くなる。エドワードも通常業務をしながらのこの看病なので相当疲れているであろう。
現在、7月1日午前2時。破水してから大体一日後。初産はとにかく遅い場合があるよと言われる度に泣きそうになる。
「すみません、少し席を外しますね」
「ああ,,,」
エドワードがドアを開けようとした時同時に廊下側から開けられた。立っていたのはフランシスだった。
「よっ!お兄さんが近くにいてあげるよ」
「はぁ!?なんでお前がくんだよ!」
「ひどっ!いてもいいじゃん!,,,それに、来たのは俺だけじゃないよ。」
スっとドアの前を退くと、のっそり入ってきたのはスコットランド、北アイルランド、ウェールズの3人の兄であった。
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