菊はポロポロと泣き出す。実際、聞いている側としても衝撃が強すぎる。しかしグッとこらえて菊の肩を引き寄せ抱きしめる。
「ありがとう。言ってくれて。オランダの言った通りだ。誰も悪くねぇ。」
「で、でも」
「菊、俺な出産するってなった時調べたんだよ。リスクってやつを」
次は目をしっかりと見て話す。
「出産は命懸けなんだってな。母子ともに健康であるのが奇跡なくらい、恵みのものなんだと。お前はその命懸けを必死にしていた。それでも神様は子を連れてっちまった。でもきっと巡り巡って菊はまたその子に会えるだろうな」
「え,,,,?」
「この世界、この地球、また人間に生まれ変わるのだって有り得なくはないだろ?ましては俺たちは何百年も生きてるんだからきっと会えるって訳だ」
「,,,,っあはは、なんですかそれ」
クスッと菊が笑い空気が和む。
「,,,,ありがとうございましたアーサーさん。少し胸が軽くなった気はします。」
「それで、相談というか、発表というか」
「なんでしょうか?」
「実は、産んだ後子供は養子縁組に出そうと思ってるんだ。」
「なんと、」
ずっと一緒にいたい。それは思っていたのだが、子供はそれで幸せなのだろうか?
国の化身が生まれるのであればそれでいい。
しかし、普通の寿命を迎える子供であったら?歳を取らない容姿が変わらない親がいること、それはきっと子供にとって不幸せであろう。
「そうなんですか、アーサーさん。よく考えたんですね。」
「あぁ。きっとその方が、いいだろう。生まれる直前までは分かんねぇから生まれてから縁組を組むことにはしてるが。」
「それでいいと思います。正しいと思いますよ。」
「それと、もう1つ伝えたいことがあって、」
「お兄ちゃん。これなんかどうやろか」
「えっ自分はこっちの方がいいかなって、」
「どっちでもええわ」
オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの3人はアーサー宅へ向かう前に花屋へ向かっていた。
「これでええんちゃうか。俺先に店出とるざ」
「えっお兄ちゃん!待ってや!」
ある花を選び、オランダは足早に店を出ていった。ため息をつくベルギーにルクセンブルクはまぁまぁとなだめその様子を見ていた店員も思わずクスッと笑ってしまった。
「えー、やっぱ珍しいやんね?春先にヒマワリやなんて。」
「えぇまぁそうですねですが、」
「ですが?」
「技術が進んだ今、花の季節なんて関係ないのかもしれないですね。相当大切な花なんでしょう。」
「あかん店員さんフォロー上手すぎー!」
店の中が楽しそうな雰囲気の中、外で1人タバコを吸うオランダ。
「あ?オランダじゃねぇか」
「,,,,スコットランドかいな」
両手に紙袋を抱え、中が膨らんでいることから買い出しにでも出かけていたのだろう。
「珍しいじゃねぇか。イギリスに何しに来たんだよ?」
「別に」
「別にってなんだよ。教えろよ」
グイグイとくるスコットランドに嫌々とオランダが堪えていたが、タバコをスコットランドに1本渡し、
「お前はアーサーのことどう思うとんのや」
「あ?あー、そうだな」
アーサーとスコットランドは仲が悪いと思っていたので予想外の軽い返答に戸惑うがあえて何も言わずに聞いておく。
「妙に生き急ぎとか、情が湧いたり国としてどうかとかは思うけどよ。まぁ、弟だし。お前も義妹弟持ってるだろ?なんか憎めないんだよ」
「最近アーサーと会ったんか?」
「さっき会ってきたぞ?」「あ?」
思わず咥えていたタバコを落としてしまい、落胆した顔でそのタバコを眺めているとポンと肩を叩く。
「その、なんだ。俺たちにも一応妖精とやらが見えるし聞こえるんだよ。それで,,,,その、まぁあの日ノ本と上手くやってけよな」
気まづそうな顔で去っていくスコットランドと入れ替わりで会計を終えたベルギーとルクセンブルクが店から出てきた。
「お待たせしました。姉さんがずっと喋ってたもので,,,,」
「しゃーないやん!だってほんまにこのセンスな,,,ってお兄ちゃんどしたん顔あっか笑!美人なお姉ちゃんでもおったん?笑」
「,,,行くぞ」
その頃アーサー宅
「髭とマシュー、遅れてくるらしい」
「そうなんですか。渋滞でしょうかね、」
「そうかもな」
来たる客の用意を2人でしていた。菊には話す内容は全部伝えているし、なんなら私いらなくないですか?とかも言われた。しかし、まだなんとなく不安なので居てもらうことに。
「ほんとにお腹大きくなりましたね。あと3ヶ月?でしたっけ。」
「あぁ。双子だから余計なのかもな」
「きっと元気な子なんですよ。両方男の子でしたらどうしますか?」
「あー、それも【あれ】と一緒に言われたよ」
診断書など諸々をクリップで留めたものをヒラヒラと見せる。
菊が口を開こうとした時、ドンドンと力強いノック音が響いた。何事かと菊がドアを開けると物凄い形相のオランダが仁王立ちをしていた。まず向かってきたのは俺だった。お腹を明らかに見ていたが気にしていない様子で詰め寄ってくる。
「聞いてへんぞ。お前らが盗聴できるなんてな。ほぼ犯罪やろ」
「はぁ!?お前何言ってんだよ,,,あ。」
「菊。お前ちょっと来い」「え」
次は菊の手を引き部屋を出ていく。ぽかんとした自分が急に静かになった部屋に残されているとゼェゼェと息を吐いてベルギーとルクセンブルクが現れた。
「お、お兄ちゃん、見んかった?」
「お、おう。さっきあっちいったぞ」
「あーーー!もう無理!お兄ちゃん急に走っていくんやもん!」
「ほ、ほんと、そうですよね、」
「茶飲むか?用意できてるぞ。」
「おーきに、てアーサー!?そのお腹どないしたん!?」
驚くべき登場に気を取られていて想定していた発表とはならなかったが、訳を2人に話す。
「えー?言ってやそんぐらい!」
「国でもそういうことできるんですね。てっきり生殖器官はあるものの、機能はないかと」
「ちょっとオブラートに包んであげよ?ルクセン。」
あははという雰囲気が流れたものの、拒絶されるようなものではなく、安心した。思えば、兄上たちにはすぐにバレたなと思い出す。
悪阻が始まりだした頃、スコットランドが珍しく遅起きでベッドから起きれていない俺を見ていたのだ。いつもなら早く起きろとどついてくるのだが、なぜかそのまま素通りし安心していると残りの2人と一緒に部屋に来たのだ。ハテナが頭の中に浮かんでいると急に布団を剥ぎ取り、1人ずつお腹を撫で(たまに頭を撫でられて)そのまま部屋を出ていった。
なんとなく気づいたり、妖精たちから知ったのだろうけれど、なぜ聞かなかったのかは未だに分からない。
「なぁなぁ。その子のお父ちゃんって、」
「あぁまぁそれは,,,」
「あっフランシスさんとかもいらっしゃるんでしたっけ。どうせならその時に一緒に聞きませんか?姉さん」
「えー、待ち遠し過ぎるわ!」
ブーブーといいながらもベルギーがマタニティ服を見せてくれたり、ルクセンがベビー用品のカタログを探していたり和やかな雰囲気になっているとオランダと菊が帰ってきた。いつものぶっきらぼうな顔のオランダがどことなく柔らかい雰囲気を放っていたり菊の顔が赤いことや向日葵の花束を持っていることに気がついた。
きっと、何百年も前の出来事を今ようやく2人は向き合い始めたのだろう。
俺にもいつかそんなことができるのかと再び不安が募っていくが、手をぎゅっと握り
【きっと大丈夫だ】と心に言い聞かせ自信をつける。するとエドワードが入ってきた。
「いらっしゃいました。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「ああ。通してくれ。」
コメント
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最高すぎてもう言葉にできないです!まずは普通にお父さんが誰かとは気になるんですが、もうオランダさんと日本の関係が悲しすぎて…考えた主さんまじ神ですねって1人でなってましたw続き楽しみにしてます!!