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着替えの下着までカゴに入れようとする圭の手を制し、美花は慌てて奪い取る。
さすがに下着まで買ってもらうのは、申し訳ないし、何よりも恥ずかしい。
彼は、女性用の下着を買う事に、抵抗感がないのだろうか。
「こっ……これだけは自分で買うよっ」
「そうか? じゃあ残りは俺が出す」
「けいトン…………あ……ありがと……」
「う〜ん…………俺としては、好きな女から呼び捨てにされたいけどな」
クールな目尻が下がり、微苦笑を覗かせた彼がレジに並ぶと、美花も、そそくさと後に続く。
会計を済ませ、コンビニエンスストアを出た二人は、圭のマンションへ向かった。
***
暖色系の明かりに包まれたロビーを通り抜け、突き当たりのエレベーターに乗り込むと、圭が十階のボタンを押す。
(いよいよ……かぁ……)
コンビニエンスストアに立ち寄って、美花の緊張感も少し解けたとはいえ、鼓動は僅かながらもドクドクと蠢いている。
『十階です』と無機質な女性の声の通知とともに、エレベーターの扉が開かれると、圭から手を繋がれた。
共用廊下を左に曲がった突き当たりの部屋が、彼の住む自宅らしく、淡々と歩み続ける圭。
彼が、ドアノブの下にある小さな黒い正方形の部分に指先で触れると、開錠した音が、カチャリと小さく響いた。
「美花。入って」
「お邪魔しま……す……」
圭が廊下の電気を点けると、漆黒に包まれていた室内が温かな色の明かりに照らされる。
黒い壁紙で覆われた長めの廊下を、鼓動を抑え込むように踏み締めて歩く美花。
彼がリビングへ通じるドアを開けて、中に入ろうとした時、彼女は堪らず立ち止まってしまう。
「美花? どうした? おいで」
「しっ……失礼…………しますっ……」
美花は、異空間とも思える圭の部屋に、つたなく足を運んだ。
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