テラーノベル
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朝の空気はまだ冷たさを残していた。
本来なら__
深呼吸すれば気持ちが切り替わるはずの時間帯。
けれど俺の頭は、ずっと重たい鋭痛に締め付けられていた。
「…っ!大丈夫、だい…じょうっぶ!」
呪文のように心の中で繰り返しながら、俺は校門をくぐる。
友達…、先生…、何より家族に、心配されるわけにはいかなかった。
__でも、足が重い。
一歩一歩が、まるで深い水の中を歩いてるみたいだ。
教室に入ると、いつものざわめきが広がっていた。
笑い声、机を動かす音、先生を待つ様子。
その全てが、今の俺にはやけに遠く感じられた。
「かもめん、おはよっ!」
クラスメートの声に、俺はただひたすらに笑顔を作る。
ぎこちないのは自分でも分かってたけど、それ以上は隠しようがなかった。
席に座ってノートを広げる。
けれど黒板の文字は滲んで、何回瞬きしても焦点が合わない。
先生の声は右から左に向かって抜けていく。
___頭が割れる
___吐き気が喉の奥まで襲ってくる
それでも鉛筆を動かす。字にならなくてもいい。
ただ動かしていれば、授業を受けているように見える。
___そう思いこんでいた。
吐き気も頭痛ももう耐えられない。
___痛い。辛い。
喉に胃液が流れこんで来るのを感じた。
どうしよう。もう…無理なのかな。
それでもバレるわけにはいかない。
「ちょっとトイレ行ってきます。」
慌てて手を挙げて、教室を出る。
廊下に出た瞬間、足がもつれて壁に手をついた。
冷たい壁の感触に救われるように、額を押し付ける。
大丈夫。大丈夫。
そう繰り返しても、目の奥の痛みは容赦なく強くなっていった。
休み時間。
友達が弁当を広げて楽しそうに笑ってる。
俺も笑わなきゃいけない気がして、箸も持ったけれど、喉が全然動かない。
ご飯の匂いだけで吐き気がこみ上げ、口の中が酸っぱくなった。
「ちょっと……食欲なくて……。」
そう言ってごまかすと、友達は
「無理すんなよ」って言って笑ってくれた。
その優しさが痛い。
___だって…俺…嘘ついてるから。
放課後。
チャイムが鳴ると同時に、机から立ち上がった。
誰にも声をかけずに教室を出て、校門を越えた時、全身の力が抜けそうになった。
ようやく家にたどり着き、玄関を開けた瞬間___
「か…かもめっ、!?顔色が……っ!」
母の悲鳴のような声が聞こえた。
視界が揺れて、床が近づいてくる。
あ、やっぱりもう限界だったんだ。そう思った。
___気付けば…病院の白い天井を見上げていた。
検査が終わり、医師の口が開いた。皆真剣な顔をしてる。俺、もう死ぬのかな…。
「脳腫瘍が見つかりました。」
えっ…?
母の泣き声が遠くに響く。
俺は…泣けなかった。
ただ、すべての音を失ったかのように静まり返っていた。
その後…瞬く間に入院が決まり、案内された病室のドアを開ける。
白いシーツに包まれたベット。
___そして、その一つに見慣れた後ろ姿があった。
「……翔…ちゃん、?」
信じられない。
俺の隣のベットに、幼馴染の翔ちゃんが静かに眠っていた。
胸の奥から、言葉にならない感情がこみ上げる。
安心、驚き、そして強い不安。
___俺と翔ちゃん。
2人の運命は、ここから絡み合っていくのかもしれない。
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1話はここで終わり!
時間をくださり、ありがとうございました!
ソロライブ楽しみだな…。
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