テラーノベル
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社に戻ると、花梨はローズマリーの鉢を抱えて席に着いた。その香りに気づいた女子社員たちが集まってくる。
「うわぁ、いい香り! それってハーブですよね?」
「そうです、ローズマリー! 現調先のお花屋さんで話を聞いたついでに買っちゃいました」
「そうなんだ~」
「はい。最後の一鉢だったので、半額にしてくれました!」
「半額? うわぁ、ラッキーでしたね~」
「本当にいい香り~」
笑顔で談笑する女性たちを見て、少し離れた席から萌香が鋭い視線で睨んでいた。
そんな彼女に、取り巻きの二人がすかさず耳打ちする。
「彼女、城咲課長と外回りに出てましたよね?」
「課長と一緒なのに、のんきに買い物なんかしちゃって! 嫌よねぇ……」
「ほんと! 女子力でもアピールしたいのかしら?」
取り巻きの二人は次々に囁き、萌香の反応を伺う。
すると、萌香が冷たい口調で言った。
「あんな女に城咲課長がなびくわけないわ。くだらない!」
ムッとする萌香に、取り巻きの二人が慌てて言った。
「そ、そうですよね。萌香さんに比べたら、どんな女性も敵いませんもの」
「そうそう! 城咲課長みたいな大人の男性が、あんな小細工で引っかかるわけないですよ!」
「むしろ、城咲課長が狙っているのは萌香さんですもの! 心配なんて無用ですよ」
「その通り! 萌香さんは堂々としていればいいんです!」
二人はそう囁くと、そそくさと席へ戻った。
残された萌香は、不機嫌そうに小さく呟いた。
(ふんっ、覚えてなさいよ! 城咲課長は、後から来たあんたなんかに絶対に渡さないんだから!)
そう思いながら、萌香は不敵な笑みを浮かべた。
翌週の月曜、デスクで仕事をしていた花梨の背後から、突然甲高い声が響いた。
「水島さん、高岡様の不動産調査報告書、出来上がりました」
振り返ると、萌香がにこやかに微笑みながら書類を差し出していた。
「え? これ、円城寺さんが作成してくれたのですか?」
「はい。派遣のお二人が忙しそうだったので」
「そうだったんですね。ありがとうございます」
花梨が礼を言うと、萌香は踵を返し、軽く腰を揺らしながら席へ戻っていった。
(びっくり! 初めて向こうから話しかけてきたわ……私のことを嫌っているはずなのに、どうして?)
その瞬間、花梨の脳裏に以前の職場での記憶が蘇る。それは、卓也を奪った酒井莉子に、仕事を邪魔された時のことだった。
当時、花梨と莉子は共同で案件を担当していた。だが、莉子は故意に花梨の書類の数字を改ざんし、客先で間違った提案をさせたのだ。
(まさか……ね)
嫌な予感がした花梨は、目の前の仕事を片付けた後、念のため書類をチェックしようと決めた。
(今日は早く帰れると思ったのにな……)
ため息を飲み込みつつ、とりあえず目の前の作業に集中した。
「お先に失礼しまーす」
「お疲れさまー」
「明日は休みだから、ご飯食べて帰らない?」
社員が次々と帰る中、花梨はまだデスクに向かっていた。
日中の業務が予想以上に手間取り、こんな時間になってしまった。だが、この後はまだ、萌香から受け取った書類のチェックが残っている。
誰もいなくなったオフィスで、花梨は両手を挙げて「うーん」と伸びをすると、静かに書類のチェックを始めた。
やはり、すぐにミスが見つかった。数字が巧妙に改ざんされている。それも、さっと目を通しただけでは、気づかないようになっていた。
(まったく、同じような嫌がらせばかり……。考えることがみんなそっくりね!)
その時、花梨はふと思った。
莉子の嫌がらせは、花梨から卓也を奪うためのものだった。しかし、萌香はなぜ? ただ仕事を外されたことだけで、ここまで執着するだろうか?
いや、そもそも彼女が営業の仕事を外されたのは、自身のミスによる。だから、花梨とは何の関係もないはずだ。
(なんで私が嫌がらせされなくちゃならないの?)
花梨がそう思った時、机の上にある携帯が震えた。メッセージが届いたようだ。
花梨は嫌な予感がして一瞬表情を曇らせたが、意を決して携帯を手に取る。そして、メッセージ画面を開いた。
すると、嫌な予感は現実のものとなる。
【花梨! 今月もちょっとお金が足りないのよ……少し工面してもらえない?】
それは、母親からのメッセージだった。
がっかりした花梨は、肩を落とし、深いため息をついた後、こう返信した。
【久しぶりね、お母さん。なんとかしてあげたいけど、私も今、転職や引越しをしたばかりで余裕がないの。だから、再婚相手の方に相談してみたら?】
花梨はあえてそっけない返事を返すと、携帯を机の上に置き深いため息をついた。
その時、背後から低く落ち着いた声が響いた。
「またため息か。何かあったのか?」
驚いて振り返った花梨の目に飛び込んできたのは、缶コーヒー二本を手にした柊の姿だった。
コメント
27件
萌香も莉子も最悪ね💢 正々堂々と戦えないから汚い手を使って男に花梨ちゃんの出来ない所をアピールするなんて💢💢でも拓也は騙せても柊様は無理よ‼️花梨ちゃんの事きちんとみているもの🩷柊様に買っていただいたローズマリーの殺菌力で嫌らしい虫の萌香を早く撃退して欲しい‼️ それから花梨ちゃんの母親も娘に頼って生きているのかな?花梨ちゃんかわいそう😢
花梨ちゃん、 そりゃあ ため息つきたくなるよね…😢 柊さん、花梨ちゃんの仕事のサポートと心のケアをよろしくお願いします🙏
炎上児の嫌がらせに、金の無心をする母親…😰