TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する

気付くとガタンゴトンという列車の規則的なリズムが続いていた。

隣りを見ると、流星も眠っていた。

ここ最近色々と続いていたので、流星も疲れていのだろう。

せっかく大好きな電車に乗ったというのに可愛い顔をして眠り込んでいる。

その時優羽は、愛しい我が子の寝顔を見つめながら思った。


(この子は必ずに幸せにする)


優羽はそう固く心に誓った。


いつの間にか都会の景色はすっかりと消え失せ、窓の外には田園風景が広がっていた。

優羽はぐっすり眠る息子に寄り添いながら、その変化のない景色をじっと見つめ続けた。


列車はいよいよ松本駅へと近づいた。

優羽は、ぐっすり眠っている流星を起こした。

すると流星はまだ眠かったのかぐずり出した。

そんな流星に、


「ほら、もうすぐ駅に着くよ。松本駅のホームが見える」


と知らせると、流星は急にぐずるのをやめて窓ガラスに手をつき外を見た。


優羽はここで降りるからねと流星に声をかけ、

荷物を手にして流星の小さな手を握り列車の出口へ向かった。


まもなく列車は駅のホームへ着いた。


「ま~つもと~~、ま~つもと~~」


ホームのアナウンスを聞いた流星は、


「ま~ちゅもと~、ま~ちゅもと~」


と、アナウンスを真似してご機嫌になる。

二人は今乗ってきた電車を見送った後改札へ向かった。


改札を出てから駅ビルのエスカレーターへ乗り駅前広場へと下りる。

流星は長いエスカレーターに初めて乗ったので、


「ママ、エシュカレーターながいねぇ」


としみじみ言った。

その可愛らしい口調に優羽はクスッと笑う。


子供は純粋で愛らしい。

こんな時優羽は、流星を生んで本当に良かったと思った。


二人が下まで降りると懐かしい声が響いた。


「優羽お帰り! おおっ、流星…大きくなったなぁ」


そこには優羽の兄・裕樹が笑顔で立っていた。


「お兄ちゃん、迎えに来てくれてありがとう」


優羽は微笑みながら礼を言う。

そして流星に向かって、


「流星、裕樹おじちゃんよ。最後に会ったのは二年前だったから覚えてないかな?」

「そうだなあ。あの時は流星はまだ二歳だったからなぁ」


裕樹は目を細めながらしゃがみ込むと、可愛らしい甥の瞳をじっと見つめて言った。


「裕樹おじちゃんだよ!」


裕樹は流星の小さな手を取り握手をした。


「ひろ……き、おじ……?」

「ひろちゃんでいいよ!」


それを聞いた流星は、


「ひろちゃん、ひろちゃんだね!」


と嬉しそうに笑った。


「ひろちゃんはママのお兄ちゃんなのよ」

「ひろちゃんはおにいちゃん、ママのおにいちゃん!」


流星は優羽の言葉を何度も繰り返すと、嬉しそうに飛び跳ねた。


裕樹と流星が初めて会ったのは、優羽が流星を産んだ直後だった。

その時裕樹は、有給をとって東京の病院まで駆けつけてくれた。

たった一人で子供を産む妹の事が心配だったからだ。

そして出張で東京へ来た二年前にも、二人の事を心配してアパートに立ち寄ってくれた。

だから三人が再会するのはそれ以来で二年ぶりだった。


優羽の育った家は母子家庭だった。

母は若い頃父と離婚し、優羽が物心ついた時にはもう既に父はいなかった。

裕樹は優羽とは年が十歳離れているので、ずっと優羽の父親代わりのような存在だった。

優羽がシングルマザーの道を選んだ時、母は猛反対したが兄の裕樹だけはずっと温かい目で見守ってくれた。


「さ、車に乗って!」


裕樹はそう言うと、二人を車の前まで連れて行った。


そこからは、二人の母親が住む実家までのドライブが始まった。

実家は松本駅から三十キロほど離れた信濃大町という場所にある。

優羽は五年ぶりに帰った地元の風景を、懐かしそうに見つめていた。

その横で、流星が、


「山がいっぱいあるねぇ」


と可愛らしい声でしみじみと言った。そんな流星の声を聞いた裕樹は、


「流星! ここにはね、もっともっと大きな山がいっぱいあるんだよ」


「もっとおおきいの? しゅごいねぇ」


そう言ってニコニコと笑う流星の笑顔を、兄の裕樹は優しい眼差しでバックミラー越しに見つめていた。


優羽たち親子の生活が東京で行き詰まり始めた時、真っ先に帰って来いと言ってくれたのは兄の裕樹だった。

帰って来れば子育てに協力してやるからと優羽を励ましてくれた。

裕樹はまだ結婚していなかったので、自由に使える時間がたっぷりある。

その時間でいくらでも協力するからとまで言ってくれた。

優羽はその時の兄の言葉に救われた。

そのくらい東京での母子の生活はひっ迫していた。


優羽はそんな兄の思いやりを無駄にしない為にも、精一杯自分も頑張らなければと強く心に誓った。

水面に落ちた星屑

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

4

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚