テラーノベル
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電話をかけていたのは、水島花梨(みずしまかりん・28歳)。
彼女は先月、村田トラスト不動産株式会社を退職し、転職活動を経て、来月から高城不動産ソリューションズで働く予定だ。
奇遇にも、この新しい職場は、先ほどすれ違った柊が勤める会社でもあった。
前の会社で、花梨は不動産営業部に所属し、個人顧客のサポートを担当していた。常にトップクラスの成績を誇り、社長賞を受賞したこともある優秀な社員だった。
そんな彼女が転職を決意した理由は、同僚でもあり同棲相手でもある後藤卓也(ごとうたくや・34歳)の浮気だった。
卓也は花梨の後輩、酒井莉子(さかいりこ・26歳)を自宅に招き、花梨がお金を出して買ったダブルベッドで浮気をしていた。
その日、出張予定だった花梨は、急なキャンセルで自宅へ戻ったところ、卓也の裏切りの場面を目撃してしまう。
深いショックを受けた花梨は、すぐに家を出て卓也との関係を絶ち、転職活動を始めた。
運よく高城不動産ソリューションズの求人を見つけた花梨は、すぐに応募した。
不動産業界憧れの大手企業への転職は、彼女にとって大きなステップアップとなる。恋人の浮気による悔しさを振り切り、本気で採用試験に挑んだ彼女は、見事採用を勝ち取った。
今日は親友が転職祝いをしてくれるというので、花梨はこの店で楽しい時間を過ごしていたが、卓也からの電話ですっかり気分を害していた。
(ふざけるのもいい加減にしてよ!)
イライラしながら席へ戻ると、親友の御園紗世(みそのさよ)が心配そうに声をかけてきた。
「浮気男は、なんだって?」
「ベッドの処理費用を俺が払うのかーだってさ! 馬鹿じゃない?」
「はぁーっ、呆れた! 花梨、別れて正解だよ」
「私もそう思う! あんなのと今まで付き合ってたなんて……過去の自分にお説教したいわ」
「わかる。でも、今分かって良かったんじゃない? 結婚してたら、別れるのもっと大変だったでしょ?」
「うん。実は結婚の話もちらほら出てたんだよねー、でもセーフ! 結婚しても、あいつ絶対浮気してただろうし」
「ほんとセーフだわ! で、どうするの? これから」
「どうするって、何が?」
「恋愛とか結婚とかだよ」
「ああ、そんなのいらない! 恋愛なんて、もう懲り懲りよ」
「えーっ、でも、せっかく大手の高城不動産に行くんでしょう? エリートいっぱいいそうなのに、もったいない!」
「もうそういうの全然興味ないから」
「そうなの? つまんない!」
「つまんないって何よ。他人事だと思って!」
「あはは、ごめんごめん。でも、せっかく環境も変わることだし、新しい恋にチャレンジするにはいい機会なんじゃないのって思っただけ」
「何もなければ、私だってそう思ってたかもしれないけど、ことごとく男運が悪いんだもん。もう恋なんて懲り懲り」
「花梨は美人なのに、なぜかダメンズばかり引き寄せるよね~」
「何でだろう? でも、それってたぶん、神様が一生一人でいなさいって言ってる気がする……最近、特にそう思うわ」
「まだ28なんだから、そんな寂しいこと言わないでよ」
「うん……でも、今はマジでそういうのはいらないかな。それより、そっちこそ幸次(こうじ)さんとはどうなの?」
花梨の親友、御園紗世には田原幸次(たはらこうじ)という恋人がいる。紗世と幸次は同じ会社で社内恋愛中だ。
「それがね、来月の誕生日に旅行に行こうって誘われたの!」
「え? それってまさか……とうとうプロポーズ?」
「そう思う?」
「うん! そうに決まってるじゃん!」
「やっぱり、そうだよね?」
紗世は嬉しそうに微笑んだ。
「紗世はそろそろ結婚したいって言ったから、絶好のタイミングじゃない! おめでとう!」
「うん。でも、まだ決まったわけじゃないから……ただ、心の準備だけはしておこうかなって思ってる」
「そっかー、やっぱり結婚は紗世が先だったかー!」
「ふふ、どっちが先かなーって、いつも話してたもんね」
「うん、でも予想通りだったわ! 紗世と幸次さんなら絶対うまくいくから頑張れ!」
「花梨、ありがとう~」
「幸次さんは優しくてエリートだし、なんといっても紗世にベタ惚れだから……おまけに次男だし?」
「あ、それはかなりポイント高いよね?」
そこで、二人は同時に声を上げて笑った。
「結婚が決まったら教えてよ」
「もちろん! 一番に花梨に知らせるよ」
「待ってる! じゃあ、乾杯しようよ!」
「うん。まずは、花梨の新たなスタートに!」
「それと、紗世の結婚への第一歩に!」
「「カンパーイ!」」
二人は笑顔で乾杯し、勢いよくグラスの酒を飲み干した。
親友と楽しい時間を過ごした後、花梨は電車に乗りぼんやりと車窓の景色を眺めていた。
(紗世はいよいよ結婚かぁ……それなのに私ったら……同棲を始めてまだ一年にも満たないのに、まさか裏切られるなんてね……)
酔いのせいでついマイナス思考に陥っている自分に気づいた花梨は、慌てて頭を左右に振った。
(ううん、私には仕事がある! 私の使命は、不動産売買で不幸な人を一人も出さないこと! そう心に誓ってこの道に進んだんじゃない!)
花梨はそう自分に言い聞かせると、流れゆく街の景色をじっと見つめた。
コメント
32件
結婚前に分かり、同棲が解消できて良かったね!!👍 新しい職場で、きっと素敵な出会いが待ってるよ~‼️💖✨️✨️
クズ男をとっとと捨てて転職した花梨ちゃん😆 今後は仕事も私生活もきっと幸せいっぱい😊 そうなることを期待して、祈っています。 推し活のため福井に🤭 今やっと携帯見ることできた🥹
「不動産売買で一人も不幸にしない」と心掛ける花梨 不動産の商談で三回も不快にさせた多分腰掛けの萌香