テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
廊下はやけに長かった。 歩いても歩いても尽きない。
だが、子供ふたりは迷うことなく進み、時折こちらを振り返って笑った。
「ねえ、どうして炎がほしいの?」
雪の髪の少年――光が、不意に振り返って問うた。
俺は言葉を飲み込みかけたが、妙にこの館の空気が、過去を隠すのを無駄に思わせた。
「……俺は昔、守ろうとしたんだ。けど、守るはずだったものまで燃やし尽くした。炎は……奪った。だが、炎しか残らなかった」
言葉にしてみれば、乾いた灰のように軽く響く。
だが少女――闇は首を傾げ、微笑んだ。
「それでも炎を手放さないのね」
「炎しかない。これが俺だ」
その瞬間、廊下の壁がわずかに揺らぎ、赤い影が走った。
壁の装飾の縁が金色から朱に染まり、床に敷かれた絨毯の模様に炎のような揺らめきが宿る。
俺は立ち止まりかけたが、少年が軽く手招きした。
「大丈夫。こっちだよ。ぴったりの部屋を知ってる」
館は息をしているようだった。
足を踏み出すたび、熱が増していく。
俺の内側の炎と、この館のどこかが呼応している――そんな錯覚が胸を締めつけた。
そしてふたりは、重厚な扉の前で立ち止まった。
扉の向こうからは、まだ灯っていないはずの暖炉の匂いが漂ってくる。
「ここがいいと思う」
「きっと、あなたも気に入るわ」
小さな声で、ふたりは同時にそう言った。