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第10話:Z、日本を歩く
— 空港の到着
成田空港。
到着ゲートに現れたのは「特別観光客」として招かれた緑のフーディの男──Z(ゼイド)。
フードを脱ぐと、浅黒い肌に鋭い目つき。口元には柔らかな笑みを浮かべているが、その視線は天井カメラやWi-Fiアンテナ、入国端末を無意識に追っていた。
迎えに来たのはまひろとミウ。
まひろは水色のTシャツにカーキ色のハーフパンツ。小さなリュックを背負い、伸び始めた背丈とまだ残るあどけない顔立ちでZを見上げた。
「はじめまして、Zさん! 今日はぼくたちが案内するんだよ」
ミウはブラウスに淡いベージュのロングスカート。髪を後ろでふんわりまとめ、ラベンダー色のスカーフを首元に結んでいる。
「え〜♡ ようこそ旧日本へ。今は“大和国”だけど、観光はまだ“日本らしさ”が残ってるんだよね」
都心の観光
銀座の通り。
看板には「YamatoCoin歓迎!」の文字。観光客がスマホをかざして支払いをしていた。
Zは笑みを浮かべながら、まひろに問いかける。
「ここは昔、日本円だけだったのか?」
まひろは無垢に答える。
「うん。でも今はヤマトコインで買えるんだ。ぼくのお小遣いもコインなんだよ!」
ミウは隣でふんわり笑い、声を添えた。
「え〜♡ 旧日本円も少しは残ってるけど、みんな未来を信じてコインを使ってるんだよ」
その間もZの指先は自分の端末を操作し、通りの監視カメラを次々にハイジャック。
観光客の行動ログが吸い上げられていくが、周囲からはただ「旅行者が写真を撮っている」ようにしか見えなかった。
観光地での熱狂
浅草、雷門。
「Zさん!」と呼びかける観光客たちに囲まれ、記念撮影を求められる。
まひろは目を輝かせて言った。
「Zさんって、観光客なのに人気者だね!」
ミウはふんわり微笑み、ラベンダーのスカーフを軽く指で直した。
「え〜♡ だってZさんが“大和国を広めた人”って、みんな知ってるから」
Zは笑顔を見せながらも、仲見世通りの上に設置されたWi-Fiアクセスポイントに視線を向ける。
検索履歴や決済情報が静かに彼の端末に流れ込んでいった。
夜の語らい
ホテルのスイートルーム。
窓の外には赤く灯る東京タワーと、広がる街の光。
まひろはベッドに腰掛け、無垢な声で言った。
「ぼく……ただ“観光案内”してるだけなのに、Zさんがいろんなデータを集めてるなんて知らなかった」
ミウはランプの下でスカーフを外し、柔らかく微笑んだ。
「え〜♡ でも、それも未来を作るためなんだよ。
“大和国の観光”って、もうZさんに会えるってことと同じなんだから」
結末
窓際に立ったZはフードをかぶり直し、端末を閉じた。
「観光とは便利だな。人は自ら進んで情報を差し出す。
俺が歩くだけで、都市そのものが俺のものになる」
無垢な問いとふんわり同意、その裏で“観光”は監視へと変わり、旧日本の街は静かに大和国の影に飲み込まれていった。