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第11話:大和国の日常
朝の街
5年後の渋谷。
巨大ビジョンには「大和国公式ニュース」として、国軍第1隊のパレードと、ネット軍第3隊の活動報告が流れていた。
制服姿の高校生──まひろは黄緑のパーカーを羽織り、灰色のリュックを片方の肩にかけていた。背は伸び、顔つきは少し大人びてきたが、大きな瞳にはまだ幼さが残っている。
「ねぇミウおねえちゃん……みんな朝から“ネット軍アプリ”で出席してるよ。なんだか国民全員が学校に通ってるみたいだ」
隣を歩くミウはモカ色のブラウスにベージュのロングスカート。肩にかけたバッグと淡いピンクのリップが、落ち着いた大人の雰囲気を漂わせていた。
「え〜♡ それで“市民ランク”が上がるんだよ。
ランクが高い人は国軍のイベントに招待されるし、ネット軍の活動報告も見れるんだよねぇ」
スーパーでの買い物
近所のスーパー。
棚には「国軍協賛品」「ネット軍推奨品」とシールが貼られた商品が並んでいた。
協賛牛肉や、ネット軍推奨の「端末」。
まひろは無垢な目で首をかしげた。
「ぼく……ただお肉が食べたいだけなのに、なんで“協賛”とか“推奨”って書かれてるんだろう」
ミウはバッグの紐を直しながら、ふんわりと笑う。
「え〜♡ 国軍が守ってるから安心ってことなんだよ。
ネット軍の端末なら、まひろの毎日もきっと便利になるんだよねぇ」
レジのモニターには「協賛品購入で市民ポイント+5」と表示。
人々は作り笑顔を浮かべ、自然に決済していった。
学校と職場
高校の教室。
壁には「国軍が守る、ネット軍が導く」と書かれたポスター。
生徒たちは授業の前に「大和国に感謝します」と唱和していた。
企業の朝礼では社員が声をそろえる。
「国軍第1隊に感謝を」
「ネット軍第3隊に未来を」
それを拒む者はいなかった。
監視カメラとアプリが“参加状況”を自動で判定するからだ。
夜の街
繁華街には「市民ランクB以上入店可」のバーが立ち並ぶ。
入口には銀と緑の制服を着た国軍兵が立ち、笑顔で手を振る。
一方で街頭スクリーンにはネット軍が「フェイク情報を無力化した成果」を数字で誇示していた。
制服姿のまひろはスクリーンを見上げ、小さな声で言った。
「ぼく……ただ“国軍って本当に強いのかな”“ネット軍って何をしてるんだろう”って思っただけなのに、気づいたら全部が当たり前になってる」
ミウはふんわりと笑みを浮かべ、ピンクのリップを光らせながら応えた。
「え〜♡ でも安心だよねぇ。
国軍が外を守って、ネット軍が中を守ってるんだもん。
まひろの“ほんとかな”は、みんなに安心を与える力なんだよ」
結末
暗い部屋。
緑のフーディを羽織った**Z(ゼイド)**が二つのグラフを見つめていた。
一つは国軍の“市民支持率”。
もう一つはネット軍の“監視達成率”。
「見える軍と、見えない軍。
両方そろえば、人々の生活はすべて支配できる」
無垢な問いとふんわり同意、その裏で“国軍とネット軍”は市民の暮らしに根を張り、大和国の日常を静かに塗り替えていった。