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うあぁなんか毎回奇声あげてるかも( とりあえずは良かったのか? もうなんか続きがみたいしかない(
玄関の灯りがついた、その瞬間。
「……ただいま」
桃の声が低く落ちて、
翠はまだ、その腕の中にいた。
靴を脱がせようと、
体勢を変えた、そのとき。
——ブブッ。
桃のポケットで、
スマホが震えた。
一瞬、無視しかけて、
でも画面を見て、動きが止まる。
「……学校」
誰に言うでもなく、
そう呟いて、通話に出る。
「はい」
玄関に、
桃の声だけが響く。
翠は、
半分閉じた目のまま、
音だけを拾っていた。
最初は、
要点が分からなかった。
でも——
「……はい」
「……赫の件ですか」
「……処分が、決定した…」
その言葉で、
空気が変わる。
桃の表情が、
見る見るうちに強張っていく。
「……退学」
その一言が、
はっきり聞こえた。
茈が、
反射的に顔を上げる。
「……本当ですか」
電話口に向けた声は、
抑えてるのに、震えていた。
「……赫へのいじめが確認され」
「……複数名」
「……即時対応」
桃は、
何度か短く返事をして、
最後に、
「……ありがとうございます」
そう言って、
通話を切った。
しん、と静まる玄関。
誰も、すぐに言葉を出せない。
「……終わった、のか」
茈が、
ぽつりと漏らす。
「赫の……」
「いじめ」
黄は、
胸に手を当てて、
深く息を吐いた。
「……よかった」
瑞も、
小さくうなずく。
その全てを、
翠は、
ぼんやりと聞いていた。
——退学。
——処分。
——終わった。
頭の中で、
言葉がゆっくり反響する。
終わった?
じゃあ。
……俺の、これは?
桃が、
ようやく、翠を見る。
「……翠」
名前を呼ばれて、
まぶたが少しだけ動く。
でも、
言葉は出ない。
胸の奥に、
奇妙な感覚が広がっていた。
安心。
達成感。
それから———
空っぽ。
「……これで」
桃が、絞り出すように言う。
「赫は、守られた」
その言葉を聞いた瞬間。
翠は、
ほんの少しだけ、笑った。
誰にも、見えないくらい。
——よかった。
その気持ちと同時に、
意識が、
すとん、と落ちる。
桃の腕の中で、
完全に力が抜けた。
「……翠?」
呼ばれても、
返事はない。
退学の知らせが届いた夜、
その裏で。
翠は、
自分が何を差し出したのかを、
もう、思い出せなくなっていた。