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ある日突然、ロイさんが私にこんな事を訊いてきた。
「ねぇ、芙弓。どうして『ロイド』には生殖器が無いんだい?『人形はリアルであるべき!』な信念で、問題の人形達は『あんな事』が出来ちゃうくらいに精巧に作ったのに、『ロイド』にはソレが無いって矛盾してるんじゃないのかい?」
資金欲しさに作った挙句、『セクシャロイド』にされてしまった人形達の話を持ち出され、不快感が湧き上がってくる。でもまぁ納得の疑問でもあるし、誤魔化した所でロイさんが疑問を投げ捨ててくれるとは思えない。なので私は今ここできちんと対応するべきであると割り切った。
「そりゃ、どんなに検索したってアンタのイチモツの寸法や形状なんかヒットしませんでしたからね」
「……え、検索、したの?」
手先のリハビリも兼ねて人形を作っている最中での問い掛けだった為、私は彼の方を見ずに言葉を続けた。
「そりゃ無駄だって思っていても一応はしますよ。医学書とかを漁れば女性器は模倣出来ますけど、男性器は個体差があるから本人のを知らないと意味がありませんからね。んでも当然そんな情報はあるはずがなく。そりゃそうですよね、国有数の大企業グループの跡取りが股間の写真を撮られるなんてミスをするはずがないんですから。となるとどうにも出来ず、あの子だけはずっと未完成のままって訳です」
「んー……。ならもう今は作れるんじゃないのかい?」
「そりゃそれっぽい物を作るってだけならもう出来ますけど、男性器ってのは再現が物凄く難しいんです。通常時と勃起状態で形状や重さ、硬さにも変化があるし。その変化を促す為に必要な物がまず思い付かないし、かといって変化を諦めて最大サイズのままにするのは日常生活に支障が出るサイズじゃないですか。そんなん歩く猥褻物みたいで社会的に死んじゃいます。他にも、液体を内部に仕込むと管理が一層面倒にもなるし良い事なんか一つも無いですよ」
「そっか、僕のは『日常生活に支障が出るサイズ』かぁ」
「他にも、感情や快楽具合と連動させて射精をさせるシステムの構築とかも全然わかりませんし、先走りの汁との差を持たせないとだし、あの苦いだけじゃない不可思議な味や脳髄をガツンと殴ってくる様な雄の匂いの再現とか、味覚に自信があるタイプでもなけりゃ調香師でもない私じゃ絶対に作れませんからね。もし作れてもソレが減るたびに液体を補充するとかも滑稽過ぎるし、かといって射精機能を無くすと無尽蔵にずっと動物の交尾みたいな性交渉を強請ってきそうで絶対に嫌です」
「へぇ……脳髄までやられちゃうくらいに、雄っぽい匂いなんだぁ」
「まぁ、御自分じゃわかんないでしょうね」
「んんー。何にもわかっていないのは、芙弓の方じゃないかなぁ?」
何やら唯ならぬ空気を感じ、私は作業の手を止めて彼の方をゆっくり見た。恍惚とした表情を綺麗な白い手でそっと隠し、興奮に満ちた瞳でこちらを見下している。はぁはぁと息は荒れ、股間とか……もう完全にソレ、勃起していませんか?って服の上からでも分かる程に盛り上がっている。
「自分が襲われる前提で語るわ、卑猥な話を真顔でするわ。もうコレって誘ってるのと同義だよね⁉︎」
持っている道具を取り上げられ、お姫様抱っこの状態で体を持ち上げられる。
「『ロイド』も一緒に来て」
「はいはい。こっちはもう準備OKだよ」
ずっと一階で家事をしてくれていたはずのロイドまで即座に現れ、手には赤い縄と猿轡、手錠にローターと不穏な物ばかりを持っていた。
「仕事中に声を掛けた事は謝る。でもね、いくら脳内もお仕事モードだったからって、あんな淫猥な発言を平然と語ったら駄目だって!」
「い、淫猥?そんな事全然言ってないし!」
「いいや、言ってた。めちゃくちゃ言ってた!興奮するなって方が無理なくらいの話を目の前でされたらもう、もっとちゃんと僕のモノをしっかりと君のナカに叩き込みたくなっても当然だよね?」と言い、近くにある寝室にロイさんが移動して行く。
「む、無理です!私は今作業中で——」
「まだリハビリの段階で、依頼品じゃないよね?なら時間に余裕はあるはずだ」
「たっぷりじっくり、『僕ら』を興奮させない方がいいって教えてあげるね」
恐ろしき言葉と共にロイドが寝室の扉をバタンと閉めた。地獄の時間の始まりだというのに、体の奥は『この先』を期待しているみたいにキュッと疼く。この体はもうすっかり調教済みなのだと痛感しつつ、私は涙目になりながら「やだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と無駄な叫び声をあげたのだった。
【未完成な理由・完結】