「異世界……難民、なんだって?」
「異世界難民救済センター、だよ」
「救済……」
段ボールハウスに入ると、そこは別世界だった。
「──そんなわけ、あるわけっ」
「アツシくんには分かると思ったんだけど……」
アツシが頭をかきむしり悩み否定したそばからトモコがそんなことを言う。
「それはどういう……」
どういうことなのか。アツシとトモコはろくに口もきいていない。
趣味も知らないし机をつけて食べる給食での好みも知らない。
けれどトモコは一方的に知っていた。アツシが知らせてしまっていた。
「異世界、好きなんでしょ……?」
「ぐう……っ⁉︎」
慣れて、本を読んでいた。クラスメイトには見せられないライトなノベルたちを。
「どう? ここはアツシくんが好きな異世界、かな」
トモコが手を広げてくるりと回る。アツシもつられて辺りを見渡せば、ここが小高い丘の上だと分かる。
平原にはツノのはえたウサギや馬が生きていて、遠くに見える森からは嫌な感じがする。別の方角にそびえる山脈には雷雲らしきものが渦巻いていて、いかにもな雰囲気を漂わせている。
何より唯一見える街道らしきものの先には、石の壁に囲まれた大きな門のある街らしきものが見える。
ど定番である。
「そんなわけ……」
「──ない?」
頭を抱えるアツシも景色から目をそむけてはいない。分かっているから。それは欲しくても欲しくても手に入る事なんてないと諦めていた世界。
もし叶うなら、学校もゲームも全て捨ててだって来たいと願った世界。
ぐるりと見回したアツシは、その反応を楽しむように顔をのぞくトモコと目が合う。
「はは……」
アツシの笑いを誘ったのはトモコのなんてことない仕草。
耳元で髪をかき分ける、そんな仕草だけでアツシはおちた。
野暮ったい髪型にかくれた彼女の耳は長く、とがっていたから。
「設定上──アツシくんはハイエルフになってるから……」
トモコにそう教えられるとアツシは自分の耳を確かめる。
「ほんとだ……」
「ね? あとは、そう。この世界では自分の能力を見れるんだけど、そのやり方がね──」
「ステータスオープン」
トモコが言うより先に、アツシは馴染みある言葉を口にして成功させる。
「すご……本当に出た……」
「飲み込み早いし、ステータスを自分で見れるなんて」
「え? 普通は出来ないの?」
「うん。ほとんどの人はギルドか教会でお金を払って見てもらうの」
「ほとんどの……?」
「一部に、そう“鑑定”のスキルを持つ一部の人だけが出来ることなの」
トモコが言うにはそのスキルを持つ人はこの世界でもひと握りしかおらず、名乗り出れば王城に召し抱えられ一生安泰だというほど貴重で価値あるものだと言う。
「そうなんだ……気をつけなきゃ」
「え? それだけで一生ぜいたく出来そうなのに?」
「だって、王城にってことは自由に出られないかも知れないでしょ?」
トモコはアツシの言葉に「なるほど」と深くうなずく。
「──せっかくの異世界なのにさ」
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