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番外編 恨みの理由
静まり返った会議室から、風見さんと美濃さんは別室へ、本部長と移動して行った。
見事に二人が自滅した。
それにしてもあれだけ派手にやってくれるとは思わなかった。
風見さんと美濃さんの間に、恋愛感情がなさそうだと気が付いたのは、いつだったろう。
恋人同士の演技をしているように見えたのは、愛があって花音に接している「契約恋愛中」の自分と比べたからかもしれない。
会議室の片付けをしていると、俺も別室に来るようにと内線で呼ばれた。
証拠のボイスレコーダーと、スマホで撮った写真を持って別室へ行く。
風見さんは第二会議室、美濃さんはミーティングルームにいるらしい。俺は美濃さんのいる部屋のドアをまずノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
ミーティングルームは、5人座れる程度の小さな部屋。社長と本部長が風見さんを担当し、あとから来た総務部長が美濃さんの担当をしているらしく、二人が長机越しに向き合って座っていた。
「永井くん、ここへ」
総務部長の隣のイスに腰かける。
美濃さん俯いたまま鼻をすすっていて、泣いているように見えた。
「証拠があるって聞いたけど」
「パスワードを知っているという話を、美濃さんがしたときのボイスレコーダーがあります」
ビクッと肩を揺らした美濃さん。
「美濃さんはもうパスワードを知っていることと、風見に機密情報を流したことは自白したよ」
「……はい」
聞くことはそれくらいか。
ちょうど内線が入って、総務部長が席を外した。
逃げるとは思えないがとりあえずこの部屋から出ないよう、見張りを頼まれる。ミーティングルームには、俺と美濃さんだけになった。
窓の外が暗くなり、ぽつぽつと雨が降り始めていた。「いつ、気が付いたんですか? 私たちが機密情報を漏らしていると」
ゆっくり顔を上げた美濃さん。泣いていたのか目が赤く腫れている。
「ひと月ほど前です。営業先に行ったとき、BOM社の製品で似たようなものが出ていると聞いたので」
「よく、私たちだと気づきましたね」
「美濃さんに探りを入れたのは、完全にこのことを確かめるためでした」
「……だと思った」
美濃さんは小さく息をついて、口を開いた。
「今日付けで退職します。というか、懲戒解雇でしょうね」
「……あの、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「はい」
美濃さんは、開き直ったのかスッキリとした顔つきになっている気がした。エキゾチックな瞳が俺を刺すように見ている。
「なぜ、藤原さんに執着するんですか? 彼氏を取ったのは二度目だとききました」
「……藤原さんは、私が欲しいものを全部持っているんです」
「え?」
「羨ましかった。ただ、それだけです」
そう告げて、黙り込んだ美濃さん。俺は腑に落ちなくて、続けざまに疑問をぶつけた。
「羨ましいという理由だけで、ここまでしますか? 自分という人間を危険に晒し、懲戒解雇という汚点をつけてまで、なぜ藤原さんを陥れようと思ったんですか?」
「……」
「もっと、何か、他の理由があるのでは?」
「そんなこと聞いてどうするの?」
ぐっと目に力が入った美濃さん。痛いところを突かれた、そんな気持ちが伝わってくる。
「……藤原さんも気になっているのね?」
だから聞くのでしょう、と逆にこちらを突いてくる。いまさら誤魔化しても仕方ないと俺は首を縦に振った。
「そうです。藤原さんは理由を知りたがっています」
「……わかったわ。もう、潮時だと思うし」
伝えるか、伝えないかは任せると言われて、ごくんと唾を飲み込んだ。
「私と藤原さんは、異母姉妹なの」「えっ、なっ……異母……って」
「父親は同じ人。私の母親と藤原さんの両親の3人は大学の同級生で、仲の良い友人だったそうなの」