狩りという名目とはいえ、さすがに帝の御一行。馬に股がり、というわけにはいかない。
帝は、狩りらしく略式の牛車に乗られ、姫の屋敷に到着された。
慣例通り、牛車は屋敷の中まで乗り入れて、客を迎える部屋がある母屋へ横付けしたところ、女達の切迫詰まった声が流れて来た。
その騒がしさに、牛車を警護する者達は顔をしかめきる。もったいなくも、帝のお出ましであるのにと──。
皆が、ざわつく中、帝は、牛車から母屋の広縁へお移りになると、声がする方へ歩まれた。
姫君は、ことのほか、人と会うことを嫌う。きっと、帝といえども同様でしょう。と、翁より前もって知らされていた。
かの姫君は、警戒しているのだろう。ならば、こちらから、出向いてみようか。などと、外の空気に触れ、気が緩まれたのか、帝は、止める従者達の声など聞こえぬふりをなされ、姫君がいるであろう、女達の声がする先へと向かわれた。
歩みと共に、女人の抗い声が響いて来る。しかし、帝にとって、耳障りなものではなかった。
「何故、このように縁に出なければならないのです!日の光になど、私は、あたりたくありません!」
苛立っているとはいえ、まるで、琴の調べのような女人の声に、帝は、釘付けになられた。そして、使用人達に、ご機嫌を取られようとも、部屋の奥へ踵を返そうとする、女人──、皆が、かぐやの姫と呼ぶ、姫君の姿を帝は、とらえられたのだった。
あっ、と、小さな息が上がり、女達は、帝のお姿に気がついた。姫はとっさに、袖で顔を覆い、奥へ立ち去ろうと急いた。
が、急いたのは、姫だけではなく、
「お待ちを!」
帝は、とっさに駆け寄り、姫の袖を掴んでおられた。
縁に差し込める日の光よりも、輝いて見える美しき女人を、狩りの獲物になされようとしたのか、公達達同様、姫を手元に置きたいと思われたのか。
その動きは、決して誉められるものではなかったが、気が付けば、と、言うに相応しいお心から、帝は、姫の袖を掴まれていたのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!