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「そういえば、豪さんと私の上司の谷岡さん、中学時代からの親友だったんですね。連休明けに、谷岡さんから連絡先が書かれたメモを渡されて、びっくりしました。どういう経緯で、豪さんが私に連絡先のメモを書いたのか、気になっていたんです」
豪は急に気恥ずかしくなり、後頭部を掻いた。
「俺が工場見学に行った時があっただろ? まさか奈美が谷岡の部下だとは思わなかったし、あの頃はもう既に奈美に惚れていたから、職場での君がどんな感じなのか聞きたくて、あの後、直帰だった事もあって谷岡を誘って飲みに行ったんだ」
彼女も、まさか彼が工場見学の後に、純と飲みに行ったとは、思いもしなかっただろう。
『世間って狭すぎ』と呟きながら話を聞いている。
「高村さんは優秀な部下だって、谷岡が言ってたよ。それに、取り急ぎで試作品の検査と梱包も奈美がやってくれたと聞いて、俺、あの時ジーンとしちゃったんだよな……」
奈美が豪にもたれ掛かり、クスリと笑った。
「俺と奈美の出会ったきっかけは、ヤツは本当の事は知らない。合コンで知り合い、俺が一目惚れした事になっている。エロ系SNSで知り合った、なんて、さすがに言えねぇからな」
豪が腕を回し、奈美を抱き寄せてきた。
「でも、奈美に一目惚れしたのは事実だし、本気だったから、俺は直接の連絡先を教えたいと思い、自分のフルネームとプライベートの携帯番号、携帯のメールアドレスをメモに書いて、谷岡に、高村さんに渡してほしいって頼んだ」
奈美は、自分の知らないところで、そんな事が起きていたとは思いもしなかっただろう。
アーモンドアイを時折瞠目させている。
「そういう事だったんですね……」
「谷岡は忙しくて、ずっと忘れてたみたいだったが、却ってそれが良かった。連絡を取る手段が全部なくなってしまったと、俺は落ち込んだ。夏季休暇中に、また谷岡と飲んだ時に、ヤツがメモを財布の中に入れたままだった事が分かって、俺は、連休明けにちゃんと渡しておけよ、って念を押したんだ」
彼女が、きょとんとしながら所々で頷いている。
その表情が可愛くて、濃茶の髪に唇をそっと落とした。
「俺の連絡先のメモをもらった時、谷岡から変な事をされなかったか?」
「されてないですよ。『高村さんは俺がお節介な上司で引いたかもね』みたいな事は言われました」
「そうか。ヤツは前に『ここ二〜三ヶ月の間に、高村さんがすごく綺麗になった』って言ってたからな。何もされてなければ良し」
これまでにあった全ての事を互いに話し終わり、リビングには静寂が訪れ、豪と奈美は、しばらくの間無言のまま、ソファーに座って身体を寄せ合っていた。