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「奈美……」
豪は、奈美の柔らかな身体を抱きしめながら、艶髪を撫でた。
愛おしい女の名前を呼ぶだけで、胸が張り裂けそうになってしまう。
「会いたかった……」
「私も…………豪さんに……会いたかった……です……」
彼女は、おぼつかない様子で彼の肩を掴むと、奈美の額に自分の額をコツンと合わせた。
「奈美……」
彼女の名前を、何度口にしても物足りないくらいだ。
「奈美」
鼻先が今にも触れそうな距離で顔を寄せながら、またも彼女の名前を小さく呼ぶ。
豪は、黒曜石のような彼女の瞳に、眼差しを向けた。
彼女も呼びかけに応えるように、視線を絡ませてくる。
潤んだ瞳が豪を映し出しているのを見て、この先もずっと俺だけを見てほしいと、彼は切に願う。
豪の全ての想いを乗せながら囁くように、人生三十二年間、一度も口にしなかった事を奈美に向けて、初めて言葉にした。
「愛してる」
にじり寄るかのように顔を傾け、そっと唇を重ねた。
(もう……奈美を離さない……!)
彼女の清純な顔立ちに浮かび上がる小さな花弁を、ふわりと包み込むように甘く食むと、豪は、奈美に誓うように、強く抱きしめた。
「あんな出会い方をした俺と奈美だし、今まで奈美の事を泣かせてばかりだったが、もう泣かせるような事はしない。だから……これから先もずっと…………俺のそばにいて欲しい」
彼女の頭を胸元に引き寄せながら、豪は思いの丈をぶつけると、彼女の瞳が揺れているように見える。
唇をうっすらと開き、何かを言いかけ、また閉じた。
「私で……いいんですか?」
「俺は奈美がいいんだ。俺には奈美しかいない」
彼女が豪の言葉を聞き、引結ばれていた唇が次第に緩やかな弧を描いていく。
「豪さん、そんなつもりはないと思うけど、何か……プロポーズみたい」
彼女が頬を桜色に染め、照れながら顔を逸らした。
どうやら奈美は、彼の言っている事を疑っているらしい。
「奈美」
薄紅に色付いている頬に手を添え、豪の方を向かせると、真剣な表情で黒い瞳を射抜いた。