テラーノベル
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もしかして、彼も少しでも私に好感を持ってくれている? という淡い期待は打ち消した方がいいだろう
彼はただ自暴自棄になって、仕事の危機を乗り越えようとしただけよ!
自分は彼に何とも思われていない、優秀なアシスタント以外の何もでもない、それでも桜はそのままデスクに戻っても、社長室でひらめいた突飛な思いつきを払いのけることはできなかった
彼の役に立ちたい、頭の中ではジンの声と、淡路島の家族の顔が交錯する、母の厳格な視線、父の温かい笑顔、結婚しないと「人間じゃない」と責められているような親戚一族の顔が一人一人思い浮かぶ
結婚したと言えば、私の親戚一族はみんな喜ぶよね・・・?
そして彼には配偶者ビザがめでたく取得できて、会社の存続も危ぶまれる事はない、半年後に「幸せな離婚」をしても、家族は当分「再婚しろ」とは言わないだろう
どう考えても利点しか思いつかなかった、でも心のどこかで・・・本当は・・・桜は自分の本心を押し込めた、これはあくまでもビジネスで契約だ、ジンへの淡い恋心は、そっと胸の奥にしまっておくべきだ
気が付くと桜はパソコンに向かい、『半年後に幸せな離婚へ向けて』というプレゼンテーション資料を作成していた
企画書を作成するのは得意中の得意だ、読む者に利点しか想像出来ない様に書き、そしてそれが成功しているイメージしか考えられない様に相手の脳裏に植えつけるのだ
桜が作成した壮大な項目が並ぶその資料は、我ながら自分を褒めたくなるほど理路整然としていた
偽装結婚のメリットを、まるでアプリ開発の企画書のように論理的に書き連ねた、これなら彼も納得してくれるはず・・・
二時間後、桜は出来上がったファイルを社の業務用チャットでジンに送りつけた、「送信ボタン」を押した瞬間、胃がキリッと締め付けられた
もう後には引けない・・・ なのに、なぜか気持ちは落ち着いていた、まるでずっと心のどこかでこの瞬間を待っていたかのように
やがて業務チャットにジンからの返事が届いた
―資料を拝見させてもらった、よければ今晩打ち合わせをしたい―
.:・.。. .。.:・
「やった!」
桜はガッツポーズをして立ち上がった、向かいのデスクの社員達が何事か?と画面から目を離して桜を見る
慌てて桜は軽く会釈するように頭を下げ、ストンッと座って気持ちを整える、今晩の打ち合わせで、彼はどんな顔をするだろう? 私の提案が通るかどうか、あの彼の冗談がどんな形で現実になるのか
桜はギュッと目を閉じた、いづれにしても彼を祖国に帰す訳にはいかない、会社のためにも、何より自分のためにも
桜の胸は期待と不安、そしてほのかな恋心で膨らんでいた
コメント
1件
桜ちゃんの淡い恋心が報われる日が来ますように😌🙏💕