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焔垂たちが帰った後。
静まり返ったリビングに、銚子が穏やかな笑みを浮かべた。
「信愛はいい友達を持ったわね
あんなに賑やかにしてくれて」
信愛は少し俯き、小さく微笑む。
「気を遣わせちゃったかな」
すると、多摩雄が豪快に笑った。
「まったく、いい子たちだな
怪異探求倶楽部のメンバーは」
信愛は静かに頷く。
「うん・・・」
胸の奥にあった不安が、仲間たちのおかげで少しだけ軽くなっていた。
「ほんとにそう・・いい友達に恵まれたよ」
一度言葉を切り、信愛は素直な気持ちを口にする。
「正直、怖いって気持ちのほうが
強かったんだけど、みんなのおかげで──」
その瞬間だった。
──ピンポーン。
インターフォンが鳴り響く。
突然の来客に、全員が顔を上げた。
銚子が玄関の方を見ながら尋ねる。
「誰かしら?」
信愛は表情を強張らせる。
「もしかして──」
嫌な予感が胸をよぎる。
「天縁教団の人!?」
多摩雄はすぐに立ち上がり、二人を振り返った。
「二人はそこにいろ!」
そう言い残すと、迷うことなく玄関へ向かう。
「俺が様子を見てくるから!」
信愛は不安そうに頷いた。
「わ、わかった」
鈴子も夫の背中へ静かに声を掛ける。
「気をつけてね、あなた」
多摩雄は振り返ることなく、小さく返事をした。
「ああ・・・」
緊張に包まれた静寂の中、多摩雄はゆっくりと玄関へ歩みを進めた。
多摩雄は緊張を押し殺しながら、ゆっくりと玄関のドアへ近づいた。
扉の前で一度深呼吸をすると、ドア越しに静かに声を掛ける。
「どちら様ですか?」
しばらくの沈黙の後、外から聞こえてきたのは、どこか震えた少年の声だった。
「あ、あの・・う、浦添です」
その声に、多摩雄は思わず目を丸くする。
「浦添・・朝陽くんかい?」
「は、はい・・・」
その返事を聞いた瞬間、多摩雄は胸を撫で下ろした。
教団の人間ではなかった。
そう安堵すると、ゆっくりと鍵を外し、玄関のドアを開ける。
扉の向こうには、申し訳なさそうに肩をすぼめた朝陽が立っていた。
「す、すいません・・・こんな遅い時間に」
多摩雄は穏やかに首を振る。
「いや、いいんだけど、どうしたんだい?
あ、もしかして忘れ物でも──」
言い終える前に、朝陽は深く頭を下げた。
「すいませんでした!」
その突然の謝罪に、多摩雄は目を見開く。
「え!?急にどうしたんだい!?」
奥から物音を聞きつけた信愛が玄関へ姿を見せた。
「え?朝陽くん?」
朝陽は顔を上げることもできず、小さく呟く。
「せ、信愛先輩・・・」
信愛は心配そうに駆け寄る。
「どうかしたの?」
朝陽は俯いたまま、小さな声で切り出した。
「今日はすいませんでした」
信愛は首を傾げる。
「え?何が?」
朝陽は言葉を探しながら、ゆっくりと続けた。
「いや、その・・先輩たちが、その
信愛先輩やお母さんの命が危ない
って状況なのにあんなに笑って・・・」
朝陽は拳を握り締める。
「なんか場違いだったかもって思って
それでみなさんが怒ってないかなって
不安になっちゃって・・・本当にすいま──」
再び頭を下げようとした、その時だった。
「それ違うよ」
信愛の優しい声が、朝陽の言葉を遮る。
朝陽は驚いたように顔を上げた。
「え?」
信愛は柔らかく微笑みながら言う。
「みんなはわざと賑やかにしてくれたんだよ」
朝陽は目を瞬かせた。
「わ、わざと!?」
その言葉の意味がすぐには理解できず、戸惑いを隠せない。
「ど、どうして・・・」
◇ ◇ ◇
時間は少し遡る。
白縫家の食卓では、重苦しい空気を少しでも和らげようと、みんなが他愛もない昔話に花を咲かせていた。
茜が箸を止め、興味津々といった表情で信愛を見つめる。
「えー!?信愛って昔から熱くなると
周りが見えなくなるタイプだったんですか?」
その問いに、銚子は懐かしそうに微笑いた。
「そうなのよ・・・あれはいつだったかしらね」
少し考え込んだあと、思い出したように頷く。
「あ、そうそう♬信愛がまだ9歳の頃の話よ」
信愛は恥ずかしそうに頬を膨らませる。
「もう余計な事言わないでよね?」
すると、さくらが身を乗り出した。
「いいじゃん♬いいじゃん♬
私聞きたぁーい♬」
茜も負けじと笑顔で続く。
「私も聞きたぁーい♬」
信愛は肩を落とし、小さくため息をついた。
「も〜う・・・」
銚子は楽しそうに笑いながら話し始める。
「昔ね、芸能人が宝探しするバラエティ番組があって
それに信愛ったらどっぷりハマってたのよ」
多摩雄も思い出したように笑う。
「あはは、ああ、あったな『私も宝探しする』
って色んな場所走り回ってたっけな〜♬」
「そうなのよ」
銚子は苦笑いを浮かべながら続けた。
「『ここにお宝がある気がする』って言って
排水溝に手を突っ込んで手が泥だらけになるわ
近所の犬小屋に手を入れて噛まれて大泣きするわ
さらには木登りして降りれなくて大泣きするわ
もう〜・・・大変ったらなかったわよ(笑)」
茜は吹き出した。
「きゃははは♬大泣きし過ぎ♬
そして無鉄砲すぎ〜(笑)」
銚子は肩をすくめる。
「しまいには隣町まで勝手に宝探しに行って
帰って来ないからみんな大慌てでね」
さくらは腹を抱えて笑う。
「きゃ〜はは、ヤッバ(笑)」
銚子は最後に苦笑しながら締めくくった。
「結局迷子になって交番で保護されたのよ
警察から電話もらった時はビックリしたわよ」
焔垂は思わず頷く。
「まぁそうなりますよね(笑)」
多摩雄も懐かしそうに目を細めた。
「あの時はホント生きた心地しなかったよ」
信愛は照れくさそうに頬をかきながら笑う。
「みんな笑いすぎ!いいじゃん子供らしくて
誰にだってそんな経験あるでしょ?」
そう言って、信愛は朝陽へ優しく視線を向けた。
「ね? 朝陽くん?」
突然話を振られた朝陽は、箸を持つ手を止めたまま固まる。
その様子に銚子が不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの?元気ないわね?」
朝陽は慌てて首を横に振り、ぎこちなく笑顔を作る。
「いや、そんな事ありませんよ」
「げ、元気ですよ」
信愛は少し安心したように微笑む。
「そう? なら良いんだけど」
コメント
1件
読み終えました…☕️ 朝陽くん、帰ってきて謝ったんだね。あの場にいた誰も怒ってなかったのに、自分だけ浮いてる気がして不安になって…「わざと賑やかにしてくれたんだよ」って信愛先輩が言ったとき、ちょっと泣きそうになった。みんな、信愛を思って笑ってたんだなって。昔話のエピソードも可愛くて、銚子さんと多摩雄さんの温かさがじんわり沁みた。最後の「それ違うよ」って台詞が優しくて好きです。
#普通
野々さくら
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ありあ
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